小説(雷霆) | ナノ
闇を駆ける馬 暁に鬻ぐ猫(11/29)
 
 一旦、ドックを後にして海が見える公園へ足を運ぶ。波の音を浴びながら、ライは傍らに立つリョウへ、熱い視線を注いだ。

「……リョウは、何処の生まれなの? 何度、聞いても教えてくれなかったよね」

 東国バハラタから、カヌーで来たと。

 ……それは以前に訊いていたが、生まれた国の事は、毎回はぐらかされていたと。
 好きな人の事を一つでも知りたいという本心を仕舞い、訊ねる瞳へ思いを込めた。

「生まれ、か」

 ぽつりと洩らし、答えを倦ねていたが。

「あー……白状すれば、教えなかったというより、俺自身もよく分からないのだよ」

 ……と、リョウが苦笑を浮かべる。

「え、ええぇっ? どういうこと??」

「五年位前になるか。俺は死に掛けて海に漂っていた所を、海賊船に拾われたんだ」

 海賊に助けられる以前の記憶は、殆ど失われているという。要するに記憶喪失だ。

 出生が答えられないのも当然である。

「そんな事情が……。無理に聞いちゃいけないことだった?」

「いや、君が聞きたいというなら話そう」

 そう言って、リョウは朧気な微笑みを見せると、海の方へ顔を向け遠い目をした。
 


×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -