小説(雷霆) | ナノ
闇を駆ける馬 暁に鬻ぐ猫(10/29)
 
 アッサラームを立つ際、リョウは密かにダルダスから、心付けを貰い受けていた。
 しかし、運が悪いことに現在ドックで造られている船はどれも高額のものばかり。

 一行の所持金と、ダルダスからの心付けを足しても、到底、買えそうになかった。

 一応、職人に訊ねてみたところ……。

「兄さん達の金で買える船っていったら、これくらいなもんだな!」

 ……と、修繕中の漁船を指す。

「やはりな。最初から、そんな予感はしていたんだが。あれに乗るかい?」

「あんな変のに乗りたくないもん!」

 予測通り、ライが駄々をこねたことに、リョウが噴き出した。こういう場合に見せる子供っぽさが面白くて堪らないらしい。

 笑いを抑えながら、懐かしい目をする。

「あれでも、カヌーよりはマシだよ?」

「そっか、リョウってばカヌーで来たんだよね。大変じゃなかったの?」

「ははっ、大変だったとも。途中で大王イカ、三体に襲われて死ぬ思いだったさ」

 大変だと言う割りには、リョウの返答は余裕がある。ライは“笑い事じゃないよ”と内心は突っ込んでやりたい気分だった。
 


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