小説(雷霆) | ナノ
闇を駆ける馬 暁に鬻ぐ猫(7/29)
 
 ライは、この所ずっと鳴り続けていた耳鳴りが、静かに収まってゆくのを感じた。

(あ……なんだろ。凄く、落ち着く)

 堅く節立った手だが優しい。

 ライを包む手には、戦闘時に見せる勇猛さなど無い。寧ろ、この優しい手で敵を倒せる事が、不思議に思えてきた位である。

 癒しの手……とでもいおうか。

 その手を持つ者は、ただ触れるだけで、相手へ、恩恵を与えることが叶うという。

 正しく、リョウの手は癒しだ。

 胸を荒らす不快は静へ。体を苛んでいた要因の全てが清められてゆく思いだった。

(リョウに触れてると、汚されたところが洗われてく感じがする)

 もう大丈夫と、頷く。ライの頭を、手は慈しむように、労るように撫でてくれた。

「ライ、君の事は俺が守る」

「リョウ……」

 頬に残った涙の跡を指でなぞり、真摯な眼差しがライへ、一心に向けられている。
 考え倦ねたような間。その間を以て、形の良い上品な口元に、笑みが湛えられた。

「君を不安にさせる、全てから――な」

「うん、リョウ。ありがとう」

 握り合った暖かい手を引き寄せると、ソッと頬へ当てる。ライは心の中で、“大好き”と秘めていた想いを繰り返していた。
 


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