小説(雷霆) | ナノ
闇を駆ける馬 暁に鬻ぐ猫(6/29)
 
「……ライ?」

 呼び掛けと共に開く扉。……リョウが遠慮がちな顔つきで、部屋へと入ってきた。
 ベッドの傍らに屈むと直ぐ、ハッとしたように目を開き、両手でライの頬を包む。

「っ……! 血が滲んでるではないか」

 余りに強く噛んだ為だろう。鮮血が流れた。それをリョウの指先で、ソッと拭われるとライが身を捩らせながら反応を示す。

「本当に、どうしたというのだ。俺に話せないことでもあったのか?」

「う、ううん。何もない……よ」

 逸らした目からも、嘘を吐いていると分かる。殊の外、リョウに言える筈はない。

「言えないなら、無理には訊かないが。だが、俺に何かしてやれることはあるか?」

 ……その時だ。

 リョウが、指についた血を舐めた。それを見た瞬間、ライの胸が激しく波打った。

「手……」

「うん?」

「リョウ。……手、握っててくれる?」

「ああ」

 緩やかな微笑みを見せ、リョウの大きな手が、ライの小さな手を優しく包み込む。
 心根と同じように熱い手。それでいて、心地の良い温もりが、手へ浸透してゆく。
 


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