「どうしました? 勇者殿」
「あ、いえ……」
ダルダスに訊ねられた途端、ハッと頭を上げると咄嗟に赤く腫れた目元を隠した。
……結局、一睡も出来なかったらしい。
朝日が目に染みるのか、頻りに擦りながら重い頭をリョウへ凭れ掛からせている。
「平気か? 辛いなら、もう一日くらい休んでも構わんが」
「ううん、大丈夫……。西に行くって考えたら、眠れなくなっただけなんだ」
「なら、いいが」
僅か、眉を顰めたリョウだったが、無理に聞かないのが彼の性分だ。その事を知っているだけに、ライは内心、ホッとした。
尤も、寝不足の本当の理由など、例え口が裂けたとしても言える筈はなかったが。
「それではダルダス殿。重ね重ねになりますが、誠に有り難う御座いました」
「いえ、礼には及びません。何か御座いましたら、何時でも拙宅へお寄りください」
大魔法使い、ダルダス。英知の見本ともいえる彼と、代わる代わる挨拶を交わす。
次なる目的地は西。船を得る為、一行は再び、魔物の領域へ旅立つのだった――。 |