小説(雷霆) | ナノ
俗物の天人(51/51)
 
「どうしました? 勇者殿」

「あ、いえ……」

 ダルダスに訊ねられた途端、ハッと頭を上げると咄嗟に赤く腫れた目元を隠した。

 ……結局、一睡も出来なかったらしい。

 朝日が目に染みるのか、頻りに擦りながら重い頭をリョウへ凭れ掛からせている。

「平気か? 辛いなら、もう一日くらい休んでも構わんが」

「ううん、大丈夫……。西に行くって考えたら、眠れなくなっただけなんだ」

「なら、いいが」

 僅か、眉を顰めたリョウだったが、無理に聞かないのが彼の性分だ。その事を知っているだけに、ライは内心、ホッとした。

 尤も、寝不足の本当の理由など、例え口が裂けたとしても言える筈はなかったが。

「それではダルダス殿。重ね重ねになりますが、誠に有り難う御座いました」

「いえ、礼には及びません。何か御座いましたら、何時でも拙宅へお寄りください」

 大魔法使い、ダルダス。英知の見本ともいえる彼と、代わる代わる挨拶を交わす。

 次なる目的地は西。船を得る為、一行は再び、魔物の領域へ旅立つのだった――。
 


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