小説(雷霆) | ナノ
俗物の天人(48/51)
 
 詰め寄りながらも、ニノの唇が歪んだ。

 最低な行為をしていると、ニノ自身、理解は出来ているようだ。自分を睨んでいるライの瞳には、怒り、嫌悪、そして怯え。

 ニノが如何に傍若無人と雖も、ライの憎悪で満ちた視線に胸が痛んでいるようだ。

 “自分の女にしたい”という切望。

 心が得る事が出来ないのなら、体から先に奪ってしまえば思い通りになる筈だと。
 今迄の経験上、関係した女でその手管に逆らえる女など一人もいなかったと……。

「ライ、愛してる。だから――」

「よ、寄るな……。僕に触るな……っ!」

 ニノの指が触れた途端、ライがその場でへたり込むと、子供のように愚図りながら小さな声で“リョウ”の名を呼んでいた。

 その声に気付いた、ニノが薄く笑う。

「仕方ねぇ。今日のとこは勘弁してやっけどよ。次は、ちゃんと報酬は頂くからな」

 感情で乱された顔を見せない為に、背を向けると、両手を掲げて“降参”を示す。
 精一杯の虚勢だが、その事を気付かれないように、ニノは足早に部屋を後にした。
 


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