――ダルダスの本宅は広い。当然ながら貸された部屋は、個室。普段なら、喜ぶところだが、どうしても気は晴れなかった。
(逃げたい……けど)
ダルダスの好意で用意された部屋、久々の入浴。真新しい寝間着……嬉しい筈の施しを感謝する余裕は、今のライには無い。
……あるのは、恐怖。足元から崩れてしまいそうな恐怖と凍るような悪寒だけだ。
夜半も過ぎた頃、ドアノブが回転した。
当たり前のように、部屋へ入ってくるニノの姿を見るなり、ライの顔からは血の気が引いてゆく。その様が可笑しかったのだろうか。ニノが口角を吊り上げ、笑った。
「参ったまいった。お師匠の説教は長くていけねぇ。おまけに補助だの、クソつまんねぇ呪文覚えさせられっしよ。散々だぜ」
そう言うと、ライの腰へ手を回す。
「それにしてもよ、風呂入って待ってるなんて。ホント、あんたって可愛いよな」
「僕、そんなつもりじゃ……」
彼も入浴を終えたばかりらしい。髪はおろされ、湿った金髪がライの頬を掠める。 いつものローブ姿では無い黒色の寝間着が、彼も男であることを際立たせていた。 |