小説(雷霆) | ナノ
俗物の天人(38/51)
 
「今、ホイミ掛けるね? ジッとして」

 リョウの体へ触れると、体温が伝わってくる。そんな当たり前のことが、ライに言い表せないような幸福感を与えてくれた。

 瞬きで照らされたライの頬は仄かに赤みを帯び、瞳はリョウだけを見つめている。

「すまない」

「ううん」

 リョウもまたライから視線を外さないまま、慈しむかのように、頭を撫でていた。
 ……寄り添う二人。その二人が醸し出す雰囲気は、何処か立ち入りが躊躇われる。

 それを眺めるニノの表情は、悔しさと深い嫉妬で酷く歪んでいた。ニノの立場からすれば、見るに堪えない光景なのだろう。

 愛おしいと感じている女が、着実に自分とは別の男への想いを深めていると……。
 瞳の力を以てしなくとも分かる、と。ライの様子から嫌でも認めるしかなかった。

 顔を逸らし、フードを深く被る。

 顔を隠したのは、自分でも酷い表情をしていると自覚しているからなのだろうか。

 舌打ちを一つ。突きつけられた現実から逃げる為、無言のまま部屋を出ていった。
 


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