小説(雷霆) | ナノ
俗物の天人(36/51)
 
「ご、ごめん。もう……平気」

 体を離した、ライの顔は真っ赤である。

 醜態を見せたことより、想う相手に抱かれた……それが、恥ずかしくて堪らない。

 恍惚な顔付き。瞳が潤み、揺れている。

 その表情を見て、何を感じたのか。リョウの唇が“何か”を語ろうと開かれたが。

「ライ、ホイミ掛けてくんね?」

 ……いきなり、二人の間へ突き出された血塗れの腕によって、閉じられてしまう。
 “重傷だ”と、アピールするニノ。言う迄も無く反省は露ほども見受けられない。

 一方、邪魔を受け、ライが膨れっ面をする。呆れて言葉も出ないといった様子だ。

「迂闊なお前ぇには、これで十分だろ!」

 ガイラスはそう怒鳴ると、薬草の束をニノの顔へ、思いっきり投げつけてやった。

「呪文を覚える、覚えないは君の自由だ。それについて、咎めはしない。だが、こう度々周りの者をも巻き込む事態を引き起こされては適わん。少し行動を慎みたまえ」

 リョウの口調は静かだが、怒りを抑えているのが分かる。黒い瞳で射られ、たじろいだのも一瞬。直ぐに睨みへ切り替えた。

 自ら深手を負い、ライを危険に晒した。

 全て、自分の所為だと。……頭で理解出来てもリョウから咎められるのは、面白くないらしい。見るからに不貞腐れている。
 


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