先に受けた傷は深い。避けようにも、儘成らないライの眼前へ、牙が差し迫った。
(駄目だ……。逃げられない!)
覚悟でギュッと目を瞑った、その時。ライの顔へ、バラバラと木屑が降ってくる。 恐る恐る目を開ければ、腹の辺りにあったのは鉄枠。砕かれ大破した人食い箱だ。
リョウが、冷徹な視線を死した魔物へ向けている。茫然としているライの様子に気付くと、瞳には忽ち優しげな光が灯った。
「他に怪我はないか?」
「あ……ぼ、僕……」
情けないが、体の震えが止まらない。
人食い箱が弱者を見極められるように、ライもまた弱者であるが為、自分より身体能力が上回る敵に対しては聡いのである。
死への恐怖なのか、顔面は蒼白。立ち上がる事も出来ない。依然としてへたり込むライを、リョウの逞しい腕が包み込んだ。
「リョウ……! 僕、怖かっ……た」
「安心したまえ。敵は死んだのだから、もう何も恐れることはないよ」
赤子をあやすように背中を撫でる手。厚い胸板へ我が身を預けると、まるで湯へ晒した氷の如く、恐怖心は忽ち溶けてゆく。
数分は、経過しただろうか。
ライも落ち着きを取り戻したらしい。安堵の息を吐き、リョウを笑顔で見上げた。 |