小説(雷霆) | ナノ
俗物の天人(34/51)
 
「う、うわあぁっ!」

 耳を裂く程の叫喚を上げ、その場へうずくまった。抱えた腕は血で塗れ、神経を損傷したのか、肩から小刻みに震えている。

「ニノ!?」

 突然の事態を驚き目をやれば、ニノの周りを、宝箱が鞠のように飛び跳ねていた。

 いや、宝箱の形をしているが宝箱とは違う。奥から覗く赤い目玉。だらりと伸びた舌と鋭い牙。――人食い箱という魔物だ。

「早く、それから離れるのだ!」

 身を翻し、敏速に踵を振り落とすが、まだ仕留めていない。上蓋を砕かれても、地面へ円を描くように掛けずり回っている。

 人食い箱が、跳ねながら向かった先。ライの脹ら脛を、鋸状に尖った牙が掠めた。

「……くっ!」

「捉えられやしねぇ!」

 斧の刃は、人食い箱を掠りもせず地を割った。悔しがるガイラスを嘲笑うかのように、そこらを跳ねている様が憎たらしい。

 実はこの人食い箱という魔物、嫌な事に相手の体力を見極める能力を備えている。

 要するに、最も危険なのは弱者。

 人食い箱の赤い目が怪しく光った途端、ライを的に絞り、一直線に向かってきた。
 


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