小説(雷霆) | ナノ
俗物の天人(23/51)
 
(綺麗な女の人と見れば、すーぐ、鼻の下が伸びるんだから。本当にニノって……)

 先程から、心の中で渦巻いていた文句。

 それを続けようとしたが、現れた女性を目にしたと同時に、文句も掻き消された。

「お待たせ致しました。わたくしが、この国の主、ネフェルティツィです」

 優美な笑みを湛え、玉座へと腰を卸す。

 座った動作で衣装が揺れる。その僅かな動きが起こす風は甘い。女の美しさを妖しく際立たせる、乳香(フランキンセンス)の香りだ。

(この人が相手なら……仕方ない、か)

 美しい、と素直に納得できてしまう。

 女王ネフェルティツィは意外と思えるほど若い。褐色の肌が艶めかしく、重たげな睫の奥で、琥珀のような瞳が輝いている。

 この麗しい女王なら、ニノが……いや、普通の男なら惑わされて当然といえよう。
 同じ女であるライでさえ、ネフェルティツィの妖しい美しさに、見惚れたらしい。

 無礼だと承知の上で、女王を直視することが出来ずに、真っ赤な顔で俯いていた。
 


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