小説(雷霆) | ナノ
俗物の天人(10/51)
 
 粗方の話を聞き終えて、沈黙に支配される中。突如としてガイラスが乱暴に立ち上がったことにより、静寂が断ち切られる。

 黙って聞いていたが、遂に辛抱が切れたらしい。苛立ちに歪む顔を父へと向けた。

「しかしよぉ、親父。なんでまた、天人だっうのを秘密にしてやがったんだ?」

「秘密になどしとらんよ。聞かれもしない事を、話す必要はないと思ったまでだ」

 事も無げな物言いだ。ガイラスだけは、此処に至る迄のニノの苦悩を知っている。
 文句を引き下げる気は無いのか、勢いよく立ち上がると、ダルダスに詰め寄った。

「だ、だがよ、こいつは落ち込んでたんだぜ! だいたい事前に知ってりゃあ……」

「なにを落ち込むことがある? ニノは私の息子で、お前の弟に変わりはなかろう」

 シレッと言い放つと、ダルダスは口に茶を運ぶ。ガイラスは暫し呆気顔を浮かべていたが、間を置いて「あっ」と一言。掴んだ手を離すと、元の椅子へと身を沈めた。

 父の口から洩らされた“息子”という言葉。そして、自分の中にある弟への情。父も同じように思ってくれていた事が、殊更に嬉しいらしい。緩んだ顔で頷いている。

 一方、ニノは感動のあまり、涙目だ。

「お、お師匠〜……」

「ええいっ、情けない顔をするでないっ! それはそうと、あのルーラは何事だ!」

 “鍛え直しだ”と怒鳴るや、突然ニノの襟首を掴む。ニノの、「お師匠、堪忍!」という喚きもガン無視だ。踵を返すと、ニノを引きずりながら、部屋を出て行った。
 


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