小説(雷霆) | ナノ
俗物の天人(7/51)
 
 ダルダスの視線が、杖へと落ちた。

 長い溜め息を吐くと、懐に手を入れて、古びたの書物を、テーブルの上へと放る。

「天人は……人で有って、人では成らず。
 即ち、神に創られし黄金の稀人である」

 書物の冒頭に連なる一文。頭に記憶された書き出しを唱え、ニノへ視線を向けた。

「それが天人である。つまり“万物の瞳”を持つ者のことを示しておるのだよ」

 ライには、語られた言葉の意味は殆ど分からなかったが。一つだけは理解出来た。

(ニノが人間じゃないって……こと?)

 思わず、ニノの方へと意識が引く。

 太陽の光を透かし、白金に輝く髪。明眸なる金色の瞳と、神秘的で静かな光を湛えた紺碧の瞳。顔のパーツ、全ての配置が計算し尽くされたように整っている。改めて見ると、やはり、美形と認めざる得ない。

 神に創られたと、納得できる美しさだ。

(でも、ニノってスケベだし、妙に欲深いし。“人間臭い”としか思えないけど?)

 性格を思い描き、ライが眉を顰めた。

 煩悩の権化みたいなニノだ。脳天気で、捻くれ者、且つ類ないスケベ。ここまで人間の汚らしさを総合して併せ持つ者は、そうそう居ないだろう。そういう意味でならば、ニノは確かに“人間離れ”している。
 


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