小説(雷霆) | ナノ
俗物の天人(5/51)
 
「まあ、よい。それよりも、だ……」

 場を切り替えるような咳払いの後、視線は立ち並ぶリョウとライへ。その鋭利な瞳で、ライの背筋は自然と正されてしまう。

「その御方が、勇者殿か」

 そう洩らしたダルダスの顔が、笑みで満たされた。ニノとガイラスの二人を、共に旅へと命じたのは、他ならぬダルダスだ。
 “勇者との対面が喜ばしい”と、表情が語っている。挨拶に、手を差し伸べるが。

「噂に違わぬ立派なお姿ですな。お会い出来たことを、大変嬉しく思っております」

「いえ、ダルダス殿……」

 先に手を握られたのは、リョウである。

 肩透かしもいいところだ。ライの方は、挨拶の手を形作ったまま、固まっている。

「親父。隣のちっこいのだぜ、勇者は」

「な、なぬ!? では、あなたは?」

「俺は、リョウと申す者。武闘家です。勇者は……ライ、挨拶しなさい」

「あ、はい。ライ、といいます」

「いやはや、勇者殿がこのような可愛らしげな御方とは! これは失礼致しました」

 豪快に笑い飛ばそうとしたダルダスだったが、完全な“ボケ”。失態といえよう。

(確かに、勇者には見えないけどさ……)

 慧眼と聞こえたダルダスでさえ、ライは“勇者”と見えぬらしい。ライが、一般的に想像される“勇者像”と異なる証明だ。

 ダルダスの反応も当然と思いながらも、ライが内心で傷付いたのは言う迄もない。
 


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -