小説(雷霆) | ナノ
俗物の天人(4/51)
 
「お前ぇって奴は適当っうか、丁寧になれねぇモンかねぇ?」

「それは今更な忠告ではないか。どうせなら、唱える前に言うべきだったな」

「ったく、煩ぇな。いいんじゃね? 怪我しても回復呪文ホイミがあんだからよ」

「あのね、唱えるのは僕なんだからね!」

 文句も収まらない三人対、ニノ。反省を見せないニノを囲み、内輪もめに忙しい。

 どうやら、誰一人として男に見られている事を気付いてないらしい。呆れで目を細めた男。深呼吸一つ、腹へ力を込め……。

「相変わらずのようだな、お前は」

 ……と、一喝。男が発した声色は静かだったが、よく通る。声の主を見るなり、ニノの顔からは緩みが消え失せ、青褪めた。

「親父!」

「うげっ、お……お師匠っ」

「なにが、“うげっ”だ。未熟者めが!」

 言い終わるより早く、拳がニノの頭をぶっ飛ばす。相当な打撃力だったのだろう。

 ニノは再び花壇の中へその身を沈めた。

(この人が、ダルダス……さん?)

 アッサラームだけに留まらず、その名を世界中へ遍かす大魔法使い――ダルダス。

 ガイラスの実父であり、ニノの師匠。

 齢五十を越しても猶、叡智に陰りを見せず、“希代の天才”と名高い男である。だが、筋肉が隆々とした体躯は魔法使いのイメージから懸け離れているように思えた。
 


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