小説(雷霆) | ナノ
俗物の天人(3/51)
 
「痛ってぇなぁ。移動の度、怪我させられちゃあ堪らねぇぜ!」

「全くだ。こう酷いとは……」

「ううっ……目が回って気持ち悪いよう」

 連なる苦情を聞いても、意に介さないのか、耳穴を掻きほじっている。小憎たらしい態度に、ガイラスが拳骨を食らわせた。

「お前ぇは少し反省くらいしやがれ!」

「い、痛ぇ! あんなぁ、ガイ兄。一瞬で帰れんだから怪我くらい我慢しろよな!」

 諸悪の根源……もといニノは、尤もらしく諭すとペッと唾を吐く。その態度たるや傲慢そのもの。兄の怒りは何処吹く風だ。

 ――この度、ニノの“瞬間移動呪文ルーラ”を用いて、目的地アッサラームへと訪れた一行。途中戦闘が無い分、楽と思われたが世の中そう甘い話などある筈が無い。

 何故なら、肝心な乗り心地――ルーラでこの表現が正しいか否かは別として――が史上最悪だった訳で。発動地点から時空通路へ向かう時、そして時空通路から目的地へ着いた時、つまりは術の前後が酷い。たった数十秒に満たない僅かなその間、仲間達は一同に、百八十度の上下回転に加えて急速な上昇と下降を連続で繰り返すといった、ハードな体験をさせられるのである。

 どうしてこうした作用が起こるのかというと、それは術者の精神に深く拘わりがある。そもそもルーラを唱えるには、術者の“イメージ力”無くしては成し得ない。頭の中へ行き場所を明確に思い浮かべることで、無限に存在する時空通路の中から、己が選定した通路だけを導き出すのである。

 故に、“無事に届けよう”といった心遣いもイメージ力の一つ。安全確保、危険への想定という配慮があって、完全となる。

 ニノのルーラにはそれが無い為、発動時は劣悪。着地時は乱暴になるのであった。
 


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