――リョウをベッドに運ぶと、看病は側を離れそうにないライへ任せることに。ガイラスとニノの二人は、部屋を後にした。
「……どういう意味だ?」
廊下の中程。訊ねたガイラスの目は真っ直ぐニノへ向けられている。ニノはそれを逸らすと、おどけたように眉根を上げた。
「魔物の戯言だ。気にすんなって」
普段通りの口調。他人ならそれで十分なのだが、ガイラスに誤魔化しは通用しそうに無い。回り込み、行く手を阻んでくる。
「嘘吐くんじゃねぇ。誤魔化した所で、お前ぇの態度を見てりゃあ分かんだよ」
「や、何でもねぇって!」
「あれの思考を読んだんだろうが。何を言い掛けた? 天人っうのは何の事だよ」
ニノを見るガイラスの目には、全てを受け入れる覚悟を決めた者の光があった。包み込むような温かくも優しい灯。その光を受け、ニノは不意に泣きそうな顔になる。
その表情を隠す為か、頭を掻きながら下を向くと、薄笑いを一つ。稍あって「兄弟の縁、切りたくなるかもな」と、言った。
「尽かす愛想なんざ、とっくの昔に尽かし果ててらぁ。いまさら切りゃあしねぇよ」
ガイラスが豪快に笑う。ニノの頭を鷲掴みにして手荒く撫でながら。この慰め方はガイラスならでは、だ。払い退け「痛ぇって」と喚くと、ニノも漸く笑みを見せた。
「とにかく分かんねぇ事だらけだ。こうなったら、お師匠に訊いてみるしかねぇな」
斜眼でベルトに挟んだ杖へ目をやり、遠く離れた場所にいる師匠へ思いを馳せた。 |