小説(雷霆) | ナノ
魔物遣いの少女(38/41)
 
「ほらな、案の定カンダタの声だ」

 口角を吊り上げながら、“行くぞ”とでも言うように、穴へ親指を逆さに向けた。


「二人共、遅いよー!」

 腰に手を当て、仁王立つアリシア。

 アリシアが、どのような抵抗をしたのか聞くのも怖い。二倍に腫れ上がったカンダタの体。体中に幾つも浮かぶ青あざは、人間というよりも、腐敗した果物のようだ。

 おまけに……。

「ぬわっ、痛い痛い! 勘弁してくれ!」

 鴉に似た魔物――デスフラッターが、木に留まる啄木鳥の如くカンダタの体を突きまくっていた。穴傷を容赦なく抉られる様は、正しく地獄絵図で。見ている方の背中もゾゾッと鳥肌が立ってくる。ニノは愉快そうな薄ら笑いを浮かべていたものの、ライの方は見るに堪えないのか顔を覆った。

「ありゃあ……相当、痛ぇぜ」

「う、うわぁ。ちょっと、気の毒かも?」

 畏縮するライを余所に、アリシアが可愛い笑顔を浮かべて、カンダタを見下ろす。

「ねぇ、盗賊さん。王冠、返すわよね?」

 天使の微笑みと目が合った瞬間、地面でへたばるカンダタは、またも失禁である。

 死をも覚悟する恐怖だったのは、想像に難くない。マスク越しでも分かる泣き顔。
 力なく頭を下げながら、蚊のような声で「はい」と一言。恐れで地面へ平伏した。
 


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