老人は白く濁った目で、ライを一心に見つめている。呼びかけても、反応はない。
「御老人、あなたが鍵職人ですか?」
不可解ながらも、物怖じせずに訊ねたリョウの横を、スーーッと通り過ぎてゆく。 歩いている、というより、糸で引いたような動きだ。ライは、背中が寒くなった。
(このおじいさんは……)
老人が、既に此の世の者でないのは、生気の無い顔付きから見ても明らかだった。 動向を探りながら、口を噤む二人は、唯ただ、老人の姿を目で追うしか出来ない。
壁に据えられた机の前。老人は、それの前に立つと同時、一瞬にして姿を消した。
「……ゆ、幽霊!?」
情けない事に、恐れに顔が引き攀っているライ。リョウは暫く思案すると、思い付いたのか、机の引き出しへと手をかけた。
「ちょっと……人の物を勝手に……!」
牽制するライを宥め引き出しから取り出したのは小さな鍵だ。それと、一冊の本。
「これは、日記のようだな」
「あのおじいさんの物……?」
他人の所有物を、勝手に読むのは少々気が引けたが、リョウの手で開かれた日記にライの視線は自然に引き寄せられてゆく。 |