小説(雷霆) | ナノ
夢を告げる老人(2/4)
 
 ――ナジミの塔、最上階に踏み入れたと同時に、腐敗臭と黴の強烈な臭気に堪えきれず、ライは袖で、鼻と口を覆っている。

「酷いところ……だね」

 展望室のようだが、使われなくなってから数年が経過している。建物、というものは無人になれば、忽ちに風化を増すのだ。

 元は白かっただろう壁、黴が不気味な染みをつくり、腐食が壁の所々に穴を開けている。窓から出られなくなったと推測される、無数の鴎の死骸が床に点在していた。

 管理者が使用していたと覚しきベッド。

 中に詰められた藁が漏れて、無様な姿を晒している。恐らく、人の出入りを絶ってから、十数年は経過していると思われる。

「やはり噂にすぎなかったか」

 リョウが無念そうにベッドに目をやる。

「うん……」

 劣化した布と、同化している白骨遺体。
 積年の埃にまみれ、灰色に汚れていた。

 ……噂の鍵職人、その人だろう。

「帰ろう、か」

 ぽつり、と呟いて、戸口へ足を向けた。

「あなたは……?」

 訝し気にライは眉に皺を寄せる。

 戸口を塞ぐように見窄らしい老人が立っていた。いつの間に入ってきたのか……。

 気配というものに、殊の外敏感なリョウでさえ、老人の侵入には気付けなかった。
 


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