舞踏会というものは、積極性のある者が情愛を勝ち取れるもの。それ故、貴婦人にダンスを申し込む者が後を絶たなかった。 一人が終われば、また一人と……流石に辟易したのか、形の良い眉が不快に歪む。
「お相手を願いませんか」
差し出された手に、仕方なく顔を上げた貴婦人。その男を見た途端、瞬く星空の瞳は見開き、薔薇色の唇から吐息が洩れた。
漆黒の髪をした貴公子、リョウである。 手を重ね合わせる、リョウと貴婦人の姿を眺める人々の口からは感嘆の声。ダンスホール内の熱気は、更に高まりを増した。
如何に高名な芸術家でも、優雅に舞い踊る二人より、勝る芸術品は作れはしない。
それ程までに、二人の姿は優美だった。
「貴女の瞳はアウイナイトの輝きですね」
最上の美しさを持つ、アウイナイト……藍方石に例えられ、貴婦人の瞳が揺らぐ。
淑やかで可憐だが、寡黙な貴婦人。
それがリョウの関心を強く引いてしまったようだ。流れていた曲が終了したというのに、一向に手を離そうとはしなかった。 |