小説(雷霆) | ナノ
貴婦人と盗賊団(9/31)
 
 舞踏会というものは、積極性のある者が情愛を勝ち取れるもの。それ故、貴婦人にダンスを申し込む者が後を絶たなかった。
 
 一人が終われば、また一人と……流石に辟易したのか、形の良い眉が不快に歪む。

「お相手を願いませんか」

 差し出された手に、仕方なく顔を上げた貴婦人。その男を見た途端、瞬く星空の瞳は見開き、薔薇色の唇から吐息が洩れた。

 漆黒の髪をした貴公子、リョウである。
 
 手を重ね合わせる、リョウと貴婦人の姿を眺める人々の口からは感嘆の声。ダンスホール内の熱気は、更に高まりを増した。

 如何に高名な芸術家でも、優雅に舞い踊る二人より、勝る芸術品は作れはしない。

 それ程までに、二人の姿は優美だった。

「貴女の瞳はアウイナイトの輝きですね」

 最上の美しさを持つ、アウイナイト……藍方石に例えられ、貴婦人の瞳が揺らぐ。

 淑やかで可憐だが、寡黙な貴婦人。

 それがリョウの関心を強く引いてしまったようだ。流れていた曲が終了したというのに、一向に手を離そうとはしなかった。
 


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