ニノだけでは無い。その場にいる殆どの人間が、彼女に熱い眼差しを送っていた。
宝石で飾られた、クレスピンに纏められた射干玉の黒髪。天使の輪と見紛う艶やかな黒髪が、光を受けて縁を蒼みに帯びる。
「なんと……美しい」
溜め息混じりに、誰かが呟く。
彼女が、それに気付き瞳を馳せた。
瑠璃色の瞳だ。深い藍に微か碧の色を持つ比類なき輝き。その瞳と目が合った貴公子の一人は無様なくらい浮き立っている。
「まるで、天使の翼が見えるようですわ」
今度は、婦人が言った。他の人々も、漸く我に返ったように、口々と賞賛をする。 ある者は、軽やかで無駄の無い、洗練された動作を誉めた。また、ある者が真珠の輝きを放つ肌を羨む。“美の女神ですら彼女には適わないだろう”と言う者もいた。
絶世の美女……称える言葉を、全て連ねても足りないくらい、彼女は美しかった。 「まさか……こうまで変わるなんて」
夢現でニノが洩らすと、ガイラスは聞き返すように、ニノを見る。最早、ニノの心は完全に彼女が捕らえているらしい。茫然と立ち尽くすばかりのニノが其処にいた。 |