貴婦人――である。貴婦人の優雅さに周囲の人々は目を奪われた様子で後ずさりをしている。彼女の歩みに従い、人並みが左右に分かれると、彼女の為に道を作った。
「お、おい。凄ぇ、美人じゃねぇか!」
興奮に、ガイラスの鼻息も荒くなる。
貴婦人は、まだ“乙女”といった年頃に見えたが、憂いを帯びた面差しが艶めきを与えている。それでいて、ほっそりとした肢体は瑞々しく清らかな果実を思わせた。
「あんな美人が見れたんだ。それだけは、王様に感謝してぇよなぁ?」
「あっ……ああ」
問いかけた、ガイラスの声すら耳に入っていないのか、阿呆のように呻いている。
その反応に、ガイラスが目を丸くした。
「なんでぇ、惚れちまったのか? よせよせ、お前ぇなんかじゃ、釣り合わねぇよ」
「えっ……あ、うん」
何時もの悪態すら出ないようだ。恍惚とした瞳は貴婦人から外れる事は無く、半開きの口元から聞こえるのは熱っぽい呻き。
ニノの顔には、スケベな面影は欠片もない。在るのは、初めて恋を知った少年の様に、戸惑いで彩られて紅潮した顔だけだ。 |