――親書を渡し待たされる事、数十分。
奥より、ゆっくりとした動作で現れた国王は、意外にも若い。幾何学模様を金糸で織った、ダルマティカが醸す威厳がなければ、普通にいる青年となんら変わらない。
「そなたが、勇者ライか。よくぞ参った」
厳格な口振り。だが、国王の頬は紅潮、瞳は大きく見開かれ、仲間達の間を踊っている。何処と無く、幼稚さの残る表情だ。 「一介の旅人に過ぎぬわたくし共に、拝顔を御許しくださった陛下の御厚意を……」
「堅苦しいことは無しにせよ!」
儀礼を述べるライを遮って、手を掲げながら近寄ると、ぐるりと首を半周させた。
(少しも王様らしくない人だな)
ライは妙な挙動の国王を見ながら、民衆から仕入れた噂を思い出し、眉を顰めた。 貴人に関わりを持たぬ民衆等の噂など、得てして、いい加減な内容が多いのが常。 享楽家だという噂や、また賭博好きであるとか、異常な衣装コレクターだとか凡そ国王に似つかわしくない噂ばかりだった。
実物に会う迄は唯の噂と思っていたが。
「勇者の来訪だ。舞踏会の準備を致せ!」
……そう言った、国王の顔は遊びたい盛りの子供同様に輝いている。町の噂が真実だと知るなり、ライは心底ガッカリした。 |