小説(雷霆) | ナノ
闇を纏う影(23/25)
 
 骨が軋む音がした。牙が食い込むカーキのローブに真っ赤な鮮血が広がってゆく。
 落ちゆく瞳孔で、意識が遠退きそうだと分かる。それでも、もう一方の杖を握る腕が“呪文を”と、震えながら掲げられた。

「ぐぅっ……おおぉっ!」

 叫びと共に吐き出された、ニノの腕。

 アゾナンゴビーが、のた打ち回り悲鳴を上げる。床にへばる体から流れ出すのは粘膜質の液体。それも忽ちに蒸発してゆく。

 ……完全に乾いた床に残ったのは、球体の小さな核。大きさ、十センチ程の物だ。

「あ? ……なんでだ」

 去った危険に、ニノが覚束無い体を起こした。呆けた表情を浮かべ、核を覗き込むと「オレ、何かしたか?」と暢気に問う。

 その問いに答えるかのように、アゾナンゴビーの核が床の上で微少に揺れている。

「そのナイフ。……そんな、物騒な物だった……なんて、気にも止めてなかったぜ」

「ナイフ……? これが、物騒だと?」

 血みどろの手に握られたナイフに目をやると、ニノは漸く納得したのか、頷いた。

 ニノの手に握られたそれは――“聖なるナイフ”だ。教会でのみ製造を許され、聖水で清められた代物。聖職者が儀式の際にも用いるという、正に神聖な力が秘められた物だ。身を守るに徹して、無意識に成した行動が、会心の攻撃となったのである。
 


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