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コツコツ、外から音がした。
「…ふくろう」
灰色の大きなふくろうが車のフロントを叩いている。クリクリとした可愛い目がじっと自分を見つめている
母さんは起きない。
そっと車を出てふくろうがいるところまで移動した。
ふくろうなんて生まれ初めてみた。
動物園は母さんが
『自然に反する』とか何とか言って連れて行ってもらったことがない
ーー要は面倒なのだ
恐る恐る近づくと、ふくろうの足には手紙が結わえてあった。
ーーそれが自分に対するものだとなぜだか直感的に分かった
そう とても懐かしいような気がした
車から離れたところまで移動してそっと手紙を離してやる。
ふくろうはホーと鳴いてぴょんぴょんと周りを飛び跳ねた。
手紙を見ると、変わった緑のインクでこう書かれていた
パーキングエリア
木の下
アンドレイ・オスカー様
裏を見るときっちりと封がしてある。
変わった手紙だ。
手紙ならロンドンの家に送ればいいのに。ーーしかし送り主はどうしてここが分かったのだろう。
手紙を見る限り送り主は正確に僕の居所を把握しているようだ。
気味が悪い程に
辺りを見回したが僕とふくろう、母さん以外誰もいないはずだから
「中を見るしかないね」
得体の知れないものだ。危険かも知れない。
心臓が口から飛び出そうだ。昨日から何も食べていない。胃がすり減って喉も乾いていた。
ーー手元の手紙の封を切る
赤い車体が淡く輝いた
遠くでふくろうの鳴く声が聞こえた気がした
『始まりの夏』
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