神様の贈り物




「…で、これからの事についてなんですが…」


「はあ…」


「まず、彼処はいつ命を落とすかも分からない戦乱の世です。戦う術を持たない貴女が生き抜くのはそう簡単ではありません。

ですから、貴女に三つ贈り物を差し上げます。貴女が彼方で生き抜く為に、必要だと思う物を言ってください。能力でも、物そのものでも、何でもいいですよ」



必要だと思う物、か…


武器…なんて持っても、使えなきゃ意味がないよね。


お金…もこの時代じゃ現代のは使えないだろうし、そもそも働く場所はあるんだから必要ない。


食べ物…あ、パピコとかケーキとか、この時代に無いじゃん!それにしようかな…いやでも三つしか貰えないのにそんなのに使うのも馬鹿らしいわ!


ああもう、三つと言わず全部欲しいわ全部!え、欲深?うっさいな同じ状況になれば皆同じこと考えるよ!……そうだ!



「四次元ポケット!」


「………何故人は皆それを欲しがるのでしょうね」


「人とは欲深い生き物なんですよ時雨様」


「うーん…それは流石に無理なんです。僕の管轄する世界の物ではありませんから。ただ、似た物なら出せますが」


「じゃ、それ下さい!」


「あ、はい…どうぞ」



若干引き気味の時雨様が、私の左手にポトンとそれを落とす。


左手に乗っかっていたのは、小汚ない巾着袋だった。



「……なんすかこれ」


「"四次元巾着"です。それは中身を覗いてみても何も入ってない普通の腰巾着でしかありませんが、手を突っ込んでみると見た目より明らかに深く入ります」


言われるがまま、右手を突っ込んでみる。手首くらいまでかなと思っていたのにどんどん入っていって、最終的に肩まで入ったのに、まだ底に手が付かなかった。



「あっ、ホントだ…」


「そうして手を入れたら…そうですね、トマトを頭に思い浮かべて下さい」


「……何故トマト?」


「簡単に想像できるでしょう?」


「確かにそうですけど…」



まあ、ゴタゴタ言ってても仕方ない。


私は出来るだけ正確に、トマトを思い浮かべた。すると手の先に、何だかつるつるした物の感触。


掴んで引っ張り出してみると、真っ赤なトマトが出てきた。何これ凄い。



「そういった風に、貴女の想像した物をそのまま取り出すことが出来ます。ただし、取り出す為の条件が幾つかあります。

まず一つ目は、つぐみさんが実物を見たことがある物であること。テレビで見た、写真で見た、などは駄目です。よって某青狸の秘密道具は出てきません。

二つ目は、つぐみさんが片手で取り出せる物であること。いくら見たことがあっても、車や冷蔵庫等の重たいものは出せません。

三つ目は注意なんですが、携帯の充電器なんかは取り出せますが、コンセントも発電機もありませんから結局使うことは出来ないということを覚えておいて下さいね」



「はい!ありがとうございます!」


「さて、後二つまで受け付けますが…どうしますか?」



あと二つ…あと二つ、かあ…


ぶっちゃけコレだけでも充分な気がするけど…



「あ、私の携帯にソーラー充電の機能つけてもらえますか?」


「さっきと比べて随分ささやかになりましたね…勿論受け付けますが。では、後一つは?」


「……………保留、ってのアリですか?」


「保留…ですか」


「はい。もしもの為にとっておく感じで…」


「成程…何が起こるかわかりませんからね。いいですよ。頼む気になったら、いつでも夢の中で僕を呼んでください」



時雨様はそう言って、にっこりと微笑んだ。



「………おや、もう夢から覚める時間のようですね」


「へ?あでっ!」



何の前触れも無く、突然右頬に衝撃が走る。間髪入れず、左頬にも。


右、左、右、左、と衝撃が走り、ジンジンと痛む。往復ビンタされてるようだが、時雨様は何もしていない。



「現実の世界で、貴女を起こそうとする人がいるようです。早く起きないと更に打たれるかと…」


「私打たれてるんですか!?へぶっ!…相手が一人しか思い付かない…!」



こうしてはいられない。早く起きないとただでさえ美人とは言えない顔が更に酷いことになる!



「時雨様、色々とありがとうございました!もう起きないと!あだっ!」


「それでは僕も、これにて失礼させていただきます」



時雨様がそう言うと、白い夢の中の世界は灰色の霧の中に消え、真っ暗になっていく。


そしてうっすらと目を覚ませば、そこには、案の定端正なお顔で此方を睨む元就様の姿があったのだった。







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