カモンベイビーってか、やかましいわ

ハロー、Mt.レディの妹です。


 いっせーのせー、で透ちゃんと見せ合った試験会場がこれまた同じところだったことには驚いた。

『同校(ダチ)同士で協力させねえってことか』
『ホ、ホントだ……受験番号連番なのに会場違うね……』

 会場へ向かう雄英のシャトルバスに揺られながら、先程耳にした会話を思い出す。連番の人間同士では会場が被り辛くしてあったと思ったのに、とんでもない確率での偶然である。恐らく同中出身でないということもあるのだろうが、私達はこの出来事を素直に喜んだ。

「やばい葉隠さん私の運命の人なんじゃない?」
「もうっ、そんな呼び方じゃ嫌……透、って呼・ん・で?」
「透ちゃん……」
「岳山ちゃん……」
「いや自分は名字呼びなんかーい!」
「いぇーいナイスツッコミー!」

「ってネタかよ!!」

 んばっとオーバーに透ちゃんのボケに突っ込んでいると、とーるちゃんの真後ろに座っていた道着を着た少年が二重突っ込みをかましてきた。前半の怪しげな会話に反応してしまったらしく顔を赤らめる様子は純朴そのものだが、髪型が石田殿に似ていて(あそこまで前髪長くないが)うっかり吹きそうになる。個性なのかお尻からは肌色の巨大な尻尾が生えており、あらゆる意味でインパクト大なビジュアルの男の子だ……少なくとも私にとっては。彼といい隣りのとーるちゃんといい眼鏡の少年といい、流石雄英高校、入学試験受験者からしてキャラが立ちまくっている。
 思わず口を挟んでしまったことに恥ずかしくなったのか、私達2人分の視線を注がれて気まずそうな表情をする尻尾君。先程のキレキレな突っ込みとは対称的に、どこか言い訳じみた様子でぼそりと言葉を付け足した。

「迫真過ぎだろ……突然目の前で女の子同士の恋愛が始まったのかと思ったよ」
「「あっはっは、そんな訳」」

 あるか、と笑い飛ばそうとしたら、顔を赤くした周囲の受験者が一斉に目を逸らしたのが見えた。マジかお前ら。……あの茶番を本気にした奴が何人いるというんだ。
 先程の眼鏡君が見たら憤死しかねないようなふざけた会話をちょくちょく投げ合っていると、ぷしゅんと排気音を立ててバスが停止した。窓から覗いてみれば、演習で使われると思しき建物群が見える。……でけぇ。

『受験生の皆さん、演習地に到着しましたよー。すぐに降車して下さーい』

 バスを運転していた男性が、独特なマイクを口元に当ててそうアナウンスする。緊張した面持ちで固まっていた者も、余裕ぶった様子でわざと他の受験者に話しかけていた者も(ちなみに私達3人は完全に素だった、正直すまん)、遅刻にされてはたまらないと慌てて立ち上がった。

「う、わぁ……めちゃくちゃ広ぇ!」
「入学試験でわざわざこんなとこまで使うのかよ……流石雄英だな」

 その規模ややることなすことのでかさに圧倒されている雰囲気はあるものの、その程度で自信を無くす受験者は殆ど見受けられない。皆それなりに、エリートとしての自負のある者ばかりが集まっているのだろう。私の隣りにいる透ちゃん、そして彼女を挟んで向こうにいる尻尾君――もとい尾白猿夫君も、気合を入れ直してはいても尻込みをした様子はない。
 2度目の高校生活は、出来ることならこの子達と送りたいなぁ――そんなことを考えながら体をほぐしていると、不意打ちのように(というか確実に不意討ちなんだろうが)プレゼント・マイクの声がわんわんと響いてきた。

『ハイ、スタートー! ……どうしたあ!? 実戦じゃカウントなんざねぇんだよ!! 走れ走れぇ!!』

 ハイスタートー、の時点で飛び出していた私達3人、そして他数名の受験者達を除いて、殆どの生徒達は何を言われたのかもわからないままぼけっと突っ立っている。しかし『賽は投げられてんぞ!!?』とのありがたい尻叩きの一言で、漸く出遅れた「その他大勢」もゲートへと駆け出した。
 トラップなどが仕掛けられている可能性を考えて態と先頭より少し後ろを走る私と、格闘技か何かで鍛えているらしく、ある程度スピードを出して走っていても息切れ1つしない尾白君。しかし身体能力はごく一般的な女の子のそれであるらしい透ちゃんだけは、早くも私達3人の中で遅れがちになってきた。「ここらが分かれ時だな」と同じことを考えた3人は、挨拶代わりに目配せをする。……一名目玉透明だけど。
 いくら仲良くなれたとはいえ、ここには馴れ合いをしに来たのではない。ここで「大変そうだね、手伝おうか?」などと言い出そうものなら、それこそが相手にとって最大の失礼だろう。
 こういう時は、ホラ、あれだ。

「地獄で逢おうぜ、ベイビー!」
「「何かヤだよそれ!!」」

 いっぺん言ってみたかったなどと供述しており……。

 
 受験者の人数が大勢いるだけあって、戦い方も十人十色だ。念動力のような力で仮想敵を建物や道路にぶつけて壊す者もいれば、体の一部を強化して撃破していく者もいる。頭の悪そうな言葉を発しながら近寄ってくる1P敵はちょっと可愛らしい気もしたが、それでも常人の2倍ほどはある大きさだ。そのサイズにも怯まず果敢に挑んでいく様子は、流石各校のエリート達といったところだった。各受験者達が個性を巧みに駆使して飛び込んでいく中、

私はバールのようなもので片っ端から仮想敵を殴り壊していた。

 ……仮想敵より絵面が悪役とは言うなかれ。このロボット達は人がいるところを狙って集まってくるため、他の受験者もそれなりにいるここでは個性を使って存分に戦うのが難しいのだ。ロボットを壊すという部分だけを聞けば寧ろ私の能力とは相性のいい勝負なのだが、それでは彼らを踏み潰してしまう恐れがある。
 攻撃的でない個性を持つ生徒達への温情なのか、工事現場を模した土地などにこうした武器になるような道具が時々転がっていた。寧ろ攻撃的過ぎるからこそ困っていたわけだが、ここはありがたくその配慮に乗っからせていただく。しかしやはり特殊なスキルを存分に振るっている生徒達に追いつくには困難で、時折自分のポイントを数えている人たちの声を盗み聞くに、突出してポイントを取れているという訳ではなさそうだ。前世の経験も踏まえてそれなりに強いつもりなのに、流石にこれは凹む。

 ――不意に。コンクリートで舗装された大地が、ずん、と揺れた。

 間を置かず数百メートルほど離れたところから聞こえてきた破壊音に、受験者が一斉に音の発生源の方向を振り向く。するとえげつないほどのパワーで、『ソレ』の近くにあったビルが「握りつぶされる」のが、建物と建物の隙間からはっきりと見えた。たった今壊された5階建てのオフィスビルよりもなお大きく、恐らくは15〜20メートル程。あのやたら曲がりくねった首のような部分を伸ばせば、さらに大きいかもしれない。学生にとって身近なところで言うと、4階建ての校舎の屋上階よりも更に高いところから見下ろされているということだ。

「ぜ――――0P、ギミックだ!」

 誰かがそう呟くと同時に、その声を引き金にしたかのように破壊音に背を向ける少年少女。悲鳴を上げて走り出すライバル達とは反対に、私は全力で『お邪魔虫』の方へ駆け出した。
 多くの受験者にとっては倒すだけのメリットもなく、圧倒的な恐れを振りまくだけの厄介者。そして私にとっては――一発逆転のチャンスというネギをしょってやって来てくれた、可愛いカモちゃんである。
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