高校生




冬は日暮れが早い。練習を終えた頃には、辺りは既に闇に包まれている。

「そんじゃ、お疲れ様ー。お先に」

「おー」
「またな、ゴールド」

いくら身体を動かしても直ぐに冷えるのだからやはり寒い。こういう日は、もうひたすらに炬燵が恋しい。駄弁る友人達と挨拶を交わし、俺は早々に体育館を後にした。指先は、とっくに冷え切っていた。


「……え」

駐輪場まで来た時、一瞬目を疑った。
頼りなく点滅を繰り返す明かりの下で佇んでいたその人は、俺を見つけるなり体重を預けていた柱から背を離す。

「グリーン先輩!?」

「……遅かったな」

慌てて駆け寄り、反射的にその手を取る。俺もだが、先輩の手は俺以上に冷たかった。氷みたいだ。何時からここにいたんだ。そもそも何でいるんだこの人。

「悪かったか?」

「う、嬉しいッスよ勿論!でも、」

ぶんぶんと首を振ると、先輩は楽しげに微笑した。そういえば笑った顔、久しぶりに見た。先輩に限らず三年生は受験で気が立っていたし。メールも電話も控えていた。だからこそ、先輩がどうして俺を待っていたのかがわからない。

「図書室で勉強していたんだ。丁度お前の部活が終わる頃だと思ってな」

内心を察したのか、それでも先輩は見え透いた嘘をついた。

もしかして、
もしかして。

「、ゴールド!」

「すみませんちょっとだけでいいから」

あるひとつの仮定が浮かび上がった途端、堪らなくなって先輩を抱きしめていた。心臓が煩い。体温がぐんと上昇する。先輩も顔は窺えないが同じ状態だろう。可愛すぎる。先輩の肩に顔を埋めて呟いた。

「やべ、死にそう」

「――ッ、恥ずかしい奴……」

「あんたが悪い。折角我慢してたのに」

――寂しい、とか、会いたい、とか。言える筈がなかったのに。

ぎゅう、と尚更に力を込めた腕に、先輩もつられて、緩慢な動作で腕を回した。誰もいない。
だから、もう少しだけ。


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