高校生×大学生






「スマイルひとつください」

そう言って胡散臭い笑顔を見せる男に、俺は見覚えがあった。こうして此処に来るのはこれで何度目だろうか。客相手だろうが嫌なものは仕方ない、思わずげんなりとした溜息が零れた。近所でよく目にする(お世辞にもあまり評判が良いとは言えない)高校の制服に身を包んだこの男、どうしてか俺にやたらちょっかいを出したがるらしい。話によればこいつが訪れるのは決まって俺がアルバイトとしてレジに立つ曜日の時間帯だと言う。そういうわけで、今ではすっかりと立派な常連客様である。

「……悪いが品切れだ。残念だったな」
「うっそマジッスか」
「マジだ。ほら、注文があるならさっさと頼め。ないなら帰って勉強でもするんだな」
「えー……」

メニューを差し出してやればぶう、と拗ねたように唇を尖らせ、しかし素直に吟味を始める。無論、後ろに誰も並んでいないのを良いことに、お喋りも忘れずに。哀しいかな他の店員はもはや暗黙の了解としているようで、咎める気配すら見せない。寧ろ兄弟みたいで微笑ましい、と店長に笑われたくらいだが、こいつと兄弟なんて死んでもごめんだ。

「因みにオススメってあります?」
「その新商品なんかどうだ、なかなか旨いと評判だぞ」
「これ1番高いのじゃないッスか。今月あんま金ないんスよねー。グリーンさんがデートしてくれるなら買いますけど」
「……あまり調子にのるなよ」

不快感を露にして一瞥するとわあ怖い、とわざとらしく肩をすくめられ、それからそいつは何を思ったのかくたびれたエナメルバッグからノートとシャープペンシルを取り出した。さらさらと何かを書き込んだ後に、そこだけを破って俺に差し出してくる。

「とりあえず注文はポークのセットで。ドリンクはコーラね。それからこれ」
「……は?」
「メアド。あ、当然俺のッスよ」

雑な字で綴られてあったのは言われた通りにメールアドレスと、おまけなのか電話番号。携帯の機種は同じなのか、なんてつい場違いなことを考える。
違う、そうじゃない。

「何でお前にメールなんてしなきゃいけないんだ」
「だってグリーンさん何時までたっても素っ気ないし俺の名前覚えてくんねえし、」

――俺、結構本気なんスよ?
徐に縮まった距離で低く囁かれた言葉に、――信じられない、ぞわりと背筋が粟立った。微かだが、頬が赤らむ感覚に慌てて手の平で隠そうとするがお見通しだとばかりに唇を歪められ。

「ば、馬鹿かお前は……!」
「はいはい、んじゃ出来上がったら持って来てくださいねー。待ってるんで」

ひらりと手をふり、飄々とした態度で友人らしい数人の陣取る席に向かう背中を眺めながら、平常よりはやく脈打つ心臓を収められずにいた。
ゴールド。
紙面上に記された名前を、指先でなぞる。

「……変な奴、」

小さく呟いた声は、誰にも聞かれることなく、ざわついた店内に霧散した。

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