確かに、(男性的な意味でだ、)美人だとは思う。男から見ても腹立つくらいに綺麗な顔立ちをしている。でも、可愛いとは微塵も感じない。
外見の問題じゃなくて、性格だ。だってあんなツンとお固く纏って融通のきかない生真面目なつまらない人間、どうせ俺のことだって内心で嘲笑っては見下しているに違いない。あのレッド先輩も好敵手と認めるバトルの腕前は尊敬するが、どうにも苦手なタイプである。

さて。
俺は現在、非常に息苦しい状況におかれている。
マグカップから空気中へ揺らめいては霧散してゆく湯気のように、願わくばこのまま消えてしまいたい。
つい先程まで賑やかだった部屋は、レッド先輩がいなくなっただけのことで、途端に静まり返ってしまう。

(マジで、頼むからレッド先輩はやく戻ってきてくんねえかな……)

内心で祈りながら、とりあえずは何か話し掛けた方が良いのだろうか、しかし話題も見つからない。悩んでいた矢先、先に口を開いたのは意外にも目前で黙って紅茶を嚥下していたグリーン先輩だった。

「……随分とだんまりなんだな」
「え、」
「そんなに、俺とは話せないか?」

口の端を小さく吊り上げ、まるで見透かしたような笑みである。

「別に話せないってわけでもないッスけど……」
「そうか。嫌われていたら悲しいからな」
「……あんた本気で言ってます?それ」
「さあ、どうだか」

先輩は曖昧に言葉を濁して肩を竦める。
明らかに、人をからかう態度。一連の言動に、どうしようもなく苛立った。
レッド先輩曰く、昔に比べればかなり穏やかになったらしいが、それでも、この人と仲睦まじくやれる気がまるでしない。以前から知り合いでなかったのが、せめてもの救いだ。

「やっぱり前言撤回。俺、あんたのことすっげえ苦手ッス」
「奇遇だな、俺もだ」
「……そりゃどーも」

ビキリ、と額に青筋がたったかもしれない。必死に抑えた声音は、僅かに引き攣っていた。――もしかして先輩は人を苛立たせる天才か何かだろうか。

「断定できる、あんた友達いないだろ」
「別に困らないから構わない。それとも、お前がなってくれるのか?」
「嫌だなあ、気色悪い冗談はやめてくださいよ」

残念。例え土下座されようが、無理な相談だ。
しかし厭味っぽく笑いながらも、ある違和感が胸を掠めて仕方ない。

幼少から、欲しいものは多少強引にでも手に入れたがる性格をしていた。それに似ている。

目前のこのすまし顔を、目茶苦茶にしてやりたいと思った。
自分よりも上だと見下ろすこの先輩を、泣かせてやりたいと思った。

――ほんの、些細な征服欲だ。ぞくぞくと背筋を興奮が駆け抜ける。

「本当腹立つッスね、あんた」
「よく言われる」

知らず、唇が歪む。
何なら、前言撤回を更に撤回しても良い。
歪んだ意味合いでは、好きということに違いはなかった。


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