金緑 | ナノ
どうやら今日はハロウィンらしい。姉さんは朝から張り切って菓子を作っていたし、現に数人の子供がそれぞれに仮装をしては、家に押しかけ、笑顔でそれらをねだってきた。
「はいこれ。グリーンの分ね」
「いや、俺は別に……」
昼過ぎ、姉さんに手渡された菓子を、俺は神妙な面持ちで眺めていた。俺は行事に参加した覚えもないし、第一甘いものはそう進んで食べる方でもない。しかし折角の贈り物を無下に扱う訳にもいかず、結局は言葉に甘えて、有り難く受け取っておいた。

「先輩、トリックオアトリート!」
「ゴールド……」
夕方頃。突如ジムに押しかけたゴールドは俺を探し出すなり満面の笑顔でそう宣った。書類を整理する手を止め、渋々振り返る。珍妙な仮装こそしていないものの、こういうことはもっと小さな子供が楽しむイベントではないのか。色々と腹立たしい男に言われたところで、微笑ましい気分にもならない。
「遊びたいのなら、レッドにでも構ってもらえ」
「えっ、何言ってるんスか!先輩じゃなきゃ駄目なんスよ?」
「はあ?」
たかが菓子を奪う行事に、どうして必ず俺でなければならないのだ。
「だってお菓子くれないなら悪戯しないと」
「おい、っ、」
言うがはやいか、ゴールドは嫌な笑みで俺をソファに沈めた。抵抗するが上に乗り掛かった身体はぴくりとも動かない。
「お菓子、持ってないんでしょう?」
「いや、待て、ぁ、ひっ……!」
首筋を、ゴールドの熱を帯びた舌がはい回る。と思えば、鈍い痛みと共に吸い付かれた。知らず、背筋が粟立つ。
「ま、待て、これは、いたずら、じゃないだろうがっ……」
「変わんないスよ、どうせグリーン先輩最後には泣いちゃうから」
「……っ、誰が、お前なんかに……ひあ、ぅ」
どうにか止めようとする間にも、ゴールドの唇が下へ下と下降していく。愛撫される度、情けなく反応してしまう身体が恨めしい。
「あ、あ、駄目だ、ゴールドッ……」
「先輩、可愛い」
ちゅ、と胸元にキスを落とされ、太股を撫でる手がいよいよ中心へ触れようとした、とき。
「……ッ、待てと言っているだろう……!」
「ぐえっ」
流される寸前、渾身の力で腹部を蹴りあげた。蛙が潰れたようなうめき声で、ゴールドが床に転がり落ちる。少々罪悪感が募るが、自業自得だろう。
「先輩ひでぇッスよ……」「知るか、お前が悪い。ほら、これで我慢しろ」
ポケットに入れたままだった包みを放ると、ゴールドは不思議そうにそれをキャッチした。中身は数時間前に貰ったばかりの、姉さんのクッキーである。ゴールドが残念そうに顔を顰た。「なあんだ、先輩お菓子持ってたんスか。つーかひょっとして手作り?」
「残念だったな。ついでに言えばそれは俺の手作りでもない」
「えー……」
「……お前、そんなに盛ってたのか?」
「はっ!?い、いや、別にそんなつもりはないッスけど!」
あまりにも悔しがるのでからかってみると、ゴールドは真っ赤になって慌てふためきだした。そういうところは、相変わらず大胆になれないらしい。不覚にも、可愛らしい、だなんて、ついつい考えてしまう。
仕方ない、俺だってそういう気ではなかったが。
側まで寄って、屈み込んでから、手を差し出す。
「ゴールド、トリックオアトリート」
「……へっ」
「どうやら持っていないようだな」
どうせなら、俺から悪戯してやろう。だから有り難く思うことだな。
たまにはこういう趣向も、悪くないだろう?
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