金緑 | ナノ
 水曜日、五時限目。
 個人的に一週間で最も怠い曜日な上に一日で最も眠い時間帯だが、珍しいことに俺は居眠りするわけでもなく、ぱっちりと目を覚ましているのである。しかしだからと言って、真面目に授業を受けているわけでもない。
 頬杖をつき、窓際から見える景色をぼうと眺めていた。11月、寒さは日増しに強くなっていく。長袖の着用を禁止されているものだから、動けば暖まるにしても、この頃の体育は最悪だ。
 現に今も、三年生達が吹き抜ける木枯らしに身を震わせながらサッカーの試合を繰り広げていた。可哀相に思うが俺のお目当てはまさしくこれで、視線の先には、丁度試合を終えたばかりらしい、茶髪を無造作に跳ねさせた、あの人。
(あー、今日もかーわいい……)
 頬を上気させ、白い肌を外気に曝して、少し乱れた髪の張り付いたうなじ。目の前にいたらまず間違いなく手を出している。思わずはあ、と息が漏れた。隣の席でシルバーが変な顔をしていたが、知らないふりをした。
 グリーン先輩は同じく試合を済ませたレッド先輩と一緒だった。流石親友、グリーン先輩の表情もどこか柔らかい。おまけに何を話しているのか、微笑まで浮かべている。俺にはそんな顔あまり見せてくれないから、少し、いや、かなり悔しい。我慢我慢。

 俺が何時も此処で先輩に見惚れていることを、先輩は知っているのだろうか。 結局、俺は授業の最後まで先輩を眺めていた。ノートは、当たり前だが真っ白のままだった。

「……ゴールド」
「はい?」

 その日の帰り道、先輩は唐突に口を開いた。

「お前、今日の、俺が体育をしている時間……」
「ああ、」
 なんだ、気がついていたのか。尤も、今日が初めてではないけれど。先輩がやはりか、と言いたげにため息をつく。

「見てますよ、毎週」
「……授業に集中しろ」
「悪いですけど、それは無理ッス」
 意味のわからない、退屈な授業よりも俺には先輩の方が大切だ。ただでさえ違う学年の御蔭で、まともな会話さえも登下校中くらいでしか交わせないのに。

「俺は少しでも多く、あんたを見ていたいんスよ。今日も、レッド先輩と仲良さそーに……」
「あ、あれは別に……」
「わかってますって」
 幼稚な嫉妬で先輩を困らせるつもりは毛頭ない。ただ、慌てる先輩が可愛いからほんの冗談でからかうだけだ。なのに、先輩はそのあとで拗ねたように言葉を続けた。

「第一お前だって、何時もシルバーと楽しそうに運動場を走り回って……、」


「え、」
 そこまで口にして漸く、先輩は墓穴を掘った!と顔を青ざめさせた。無論、一度吐き出されたそれらが元に戻る筈もない。

「あの、先輩も俺のこと見てたんスか?」
「――ッ、ち、違う!」
「はいはい、仕方ないからそういうことにしておきますよ」

 真っ赤にして拳を震わせる先輩をよそに、俺は口元の緩みを抑えられずにいた。きっと、相当だらし無いことになっているだろう。だけど、だって、あの先輩が。

(……やばいって、)

「とりあえず先輩、今日は家寄ってってくださいよ。親いないんで」


 先輩、申し訳ないですが、今日は手放せそうにありません。



(来月の席替えなんて、こなければいいのに!)
いただきます!
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