恐らく内心ではひどく混乱しているであろう先輩を一人残して出掛けたくはなかったが、知り合いにあの姿を見られるのは非常にまずい。直ぐに戻ると告げてから2時間後、段ボール箱を抱えて帰宅した俺を見て、先輩は首を傾げた。

「お前、どうしたんだ、それは」
「先輩の服っす。あんたそのぶかぶかな格好のままいるわけにも、いかないでしょ」
「それはそうだが‥そんなものよく買えたな」
「いいえ」

ナナミさんから貰ってきたんです。
言うと、先輩はまたたくまに顔を顰る。

「まさか姉さんに話したのか?」
「そうっすよ、だって仕方ないじゃないですか」

先輩の姉であり、科学者であるナナミさんなら何かわかるかと思ったのだ。結局彼女にも思い至る事柄はなかったが、先輩が小さな頃に着ていた服を渡してくれた。それにしても、彼女はどうしたものか、科学者だからか、ともかく変わった人だ。貴女の弟さんが、突然体だけ小学生くらいに縮んでしまったんですー、どういうことですかー?俺なら絶対信じない。おまけにあらそれは大変、なんて微笑む余裕すらあるとは、恐るべし。

「あと、小さいグリーンなんて懐かしいわ。会いに行きたいけど忙しくて、ゴールドくん、よかったら写真にして送ってくれないかしら、ですって」

「頭が痛くなってきた……」

同梱されていた一眼レフに、先輩はらしくない泣きそうな表情でこめかみを押さえた。