シリウス・ブラックは昔から勝手に独り歩きする噂に反して、非常に純粋な人間だった。


「……ッ」

ぴくり、と彼の長い睫毛が震える。

頬を紅潮させ、固く瞳を閉じる様子は何とも愛らしい。

出来るならばこのまま眺めていたいが、いつまでも遊ぶのも可哀相だ。
触れるだけのキスをして、こめかみを撫でてやりながら離れると、憎たらしいとばかりに睨まれた。


「ふふ、相変わらず慣れていないようだね」

「……仕方ないだろ」

それもそうだ。

何せ彼は長い時間をアズカバンにで過ごし、学生時代だって相手は私だけだったと言うのだから。


「女性を相手にするヒマなんて、なかっただろうねえ」

こちらとしては初々しい反応を示すシリウスはそれはもう可愛いし、嬉しい限りだが、彼としては不服らしい。

いい年をして未だキスですら羞恥心を感じずにはいられない、というのは、彼のプライドを傷つけるには十分だろう。


「これでも学生の頃は、女遊びしてたんだぞ」

「おや、あれは噂じゃなかったのか」

「どーだか」

「……悔しいのはわかるけど、そういう事を軽々しく口にするのは、あまり賢明じゃないよ?」


意図を掴みかねないのか、シリウスはソファに仰向けになったまま、首を傾げる。

私はそんなシリウスに覆いかぶさったままだ。
再び距離を縮めて、あくまでも悪戯っぽく笑ってやる。


「ちょ、リーマス、」

耳元へ唇を寄せると、シリウスの身体は面白いくらいに跳ねる。

密着した先から伝わる温度は熱く、こちらまで火照ってしまいそうだ。


「私は君の予想よりもずっと嫉妬深いからね。あまり私以外との恋愛関係をひけらかされると、そのまま食べてしまうかもよ?」


「な、た、食べるっておまえ」

途端、口をぱくぱくさせながらこちらを見上げるシリウス。

昔と変わらない馬鹿面。褒めてるとも。本当に食べたくなる。


「気をつけてね」


そっと額に口づけた。
まだ手を出すのは早過ぎるかな、殴られそうだから我慢はするけれど。


何年経ってもシリウスはシリウスのままだ。
おかしくなるくらいに、可愛い、可愛い、可愛い。



(言っとくがさっきのは嘘だぞ!)

(わかってるよ)


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