ホグワーツ、遠目に見る兄は何時も楽しそうに笑っていた。無邪気そのものだ。一変して、目の前の兄は何とも不機嫌そうに表情を曇らせている。

「……兄様、僕といる時くらいその顔やめてくれませんか」

うるせえ。返ってきたのはそんな可愛くない返事だった。溜息をついたところでまた機嫌が悪くなるのは火を見るより明らかだからぐっと我慢する他ない。
家にいれば常にこうなのだ。先程だって母様や父様にまた何事か言われていたから、普段よりふて腐れているのもそれが原因だろう。しかし兄様も、あれだけ罵詈雑言の嵐で喚き散らしておいて、少しはすっきりしないものなのか。

「どうせお前だって、俺のこと頭狂ってるとか恥さらしとか思ってんだろ」

「まさか。というか、そう言われたんですか?」

「……ああ」

ヒステリックに騒ぎ立てる両親の姿が頭を過ぎり、胸糞が悪くなった。俺は別に兄様みたくあの二人に対して特別な恨みこそないが、兄様をおとしめるのならば話は別だ。
躊躇いなく殺せる。
兄様の為なら。
(それに、そうすればあの方だって俺のことを気に入ってくださるかもしれない、)

「もー疲れた、早くあそこに戻りてえ」

兄様は力無く呟いてベッドに突っ伏した。俺の部屋なのだから、兄様が顔を埋めている枕は当然ながら俺のものだ。何か嫌にドキドキする。

「……僕は嫌だな、兄様を独り占めできなくなるから」

少しぱさついた髪を梳く。ホグワーツじゃ出来ないこと。ホグワーツじゃ味わえない優越感。
エゴイスティックかつ実に稚拙な思考だ。ここにいれば、兄様は俺だけの兄様なのに。

「……お前にはこの家があればいいだろ?」

「兄様がいないと意味がない」

「はは、何言ってんだよ、お前」

ベッドの縁に腰掛けた俺を、兄様は自虐的な目で見上げていた。

「考えないでください、兄様」

「……レギュラス?」

「――僕だけを、見て」

馬鹿なくせに独りで考え込んでしまうのは兄様の悪い癖なのだ。余計に辛いだけなのに。可哀相。

「ぁ、」

おもむろに伸ばした指が兄様の白い首筋に絡み付いた。酸素を求め小さく喘ぐ。本格的な抵抗を見せる前に口づけてやればいい。深く、深く。

「んん、っふ、あ」

「兄様……」

舌を捩込むと兄様は可愛らしく身体を跳ねさせた。かたく閉じられた瞳の端からは涙が筋になって頬を伝い、長い睫毛はぷるぷると震えている。
気持ち良いのと苦しいので、わけがわからないのだろう。

暫く兄様を堪能した後、酸欠になる前に解放してやる。兄様は大きく咳込んで俺を睨んだ。紅潮した頬で。嗚呼無知な兄様、そんなのは逆効果だ。

「いきなり何すんだ!」

「首絞めたらよくなるかなと思って。頭、真っ白になったでしょう?」

「ふざけんな」

「ええふざけてないですよ。ただ腹立つだけです、兄様が余計なことにばっか悩んでいるから」

第一、自分から棄てたくせして。
後ろめたさもないくせして。
何もかもが欲しいのなら、兄様は我が儘だ。

「今考えるのは、僕のことだけでいい」





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中途半端に終わる
一人称「俺」なのにあえて「僕」と猫かぶりするレギュラスが理想です


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