狼←犬




シリウスはモテる。
告白されるのは日常茶飯事のことだし、真っ赤に腫れた頬を不機嫌そうに膨らませていたこともあった。つい先日には、惚れ薬を盛られかけていた。
別にそれが羨ましいわけでもないけど、自分にはきっと体験できない苦労だ。

そう思っていた。


「……手紙?」

朝、自分の元に届いたのは、真っ白で清楚な封筒だった。ワンポイントにあしらわれた赤いハートマークを目敏く見つけたジェームズが、ひゅう、と口笛を鳴らす。

「きっとラブレターだよリーマス」

「……え」

縁のない単語に、驚いたのは僕だけじゃなかった。ジェームズの隣でパンを頬張っていたシリウスが、目を大きく見開いて僕と手紙を交互に見比べる。

「ラ、ラブレター?」

「うーん、そうみたい」

シリウスへのものかと思ったが、丁寧に綴られた綺麗な文字は確かに僕宛になっている。
頷くと、シリウスは何故か慌てたように身を乗り出した。

「嘘だろ!?」

「リーマスだって密かに人気はあるんだよ。君ほどではないけどね。知らなかったの?」

「うう、」

笑顔で告げるジェームズ、悔しそうに唸るシリウス。やりとりに含まれた意味合いは知らないが、また何か賭け事でもしていたに違いない。例えば、僕が告白されるか否か、みたいな。失礼な友人達だ。

「リーマス……」

「ん?どうしたのシリウス」

ところが、シリウスがあまりにも落ち込んだ様子でしょぼくれているものだから、いよいよ訳がわからなくなった。にやつくジェームズには全てお見通しなのだろうか。
だって、まさか彼が僕に嫉妬する筈もない。シリウスは人気がありすぎて疲れるような人間なのだ。そんな男が一通の手紙に張り合うなんて、滑稽すぎる。

「それ、もし、もし本物のラブレターだったら、お前了承するのか?」

「……そりゃ、そうしたいところだけど」

純粋な好意は嬉しいし、僕だって男だ。タイプの女の子なら、付き合いたいとは考える。
ただ、悲しいことに僕は狼人間なのだ。

「丁重にお断りするよ。残念だけどね」

「そ、そうか……」

するとシリウスは安心したとばかりに息を吐き、表情を僅かに緩ませた。ジェームズに至っては、噴き出すのを我慢するように肩を震わせている。

明らかに怪しい。
というより、不愉快だ。

「……シリウス、僕に何か隠してる?」

「へっ!?」

しどろもどろに視線をさ迷わせるシリウスに詰め寄ると、目の前の顔は茹で蛸のように赤くなった。

次の瞬間、頬に鈍い痛みが走る。叩かれたのだと気がついたのは、シリウスが席を立ち上がってからだ。


「何も隠してねえよ、リーマスのばーか!!」

まるで子供のような捨て台詞を残して走り去る後ろ姿に、最早怒る気力すら沸いて来ない。
シリウスの真意なんて我慢ならずに腹を抱えて笑い出したジェームズに尋ねるしか術はないが。

「君も分からず屋だよね!鈍すぎるよ!」


「……はあ?」

ますます困惑するばかりだ。とりあえず、後でシリウスに謝っておかないと駄目かなあ。何が悪かったかさっぱりだけど。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -