「なあリーマス、暇」


私が忙しい時、或は趣味に没頭したい時、シリウスは大体暇を持て余していた。計算しているのかただ単に空気が読めないのか、恐らくは後者だろう。

ソファに座る私の隣に腰を下ろしてから腕を回し、頬を擦り寄せる姿は可愛らしいし、恋人を蔑ろにするつもりは毛頭ないが、私だって自分だけの時間も大切にしたいのだ。
学生になるまで独りきりでいることが殆どだったからか、読書は小さな頃から好きだった。

「なあってば!」

再度呼びかけられ、漸く文字の羅列から視線を移す。途端、シリウスは嬉しげに顔を輝かせるが、折れてやるつもりはない。
ただ下手にシリウスを放っておくと実に面倒な事態に陥るのだ。長い付き合いから熟知している。彼の粘り強さは褒めるべき長所のひとつであり、厄介な部分でもある。

「はいはい、後でね」

期待を裏切られたらしい。シリウスは瞬く間に不機嫌になる。
仕方のないことだが、拗ねくる彼は学生時代そのままだった。まるで私だけが歳を重ねてしまったようだ。膨れっ面で私を睨むシリウスに苦笑し、少々痛んだ髪を梳く。

「……本なんて、いつでも読めるだろ」

「今いいところなんだから大人しくしてて」

「うー……」

「可愛く唸っても駄目なものは駄目。我慢、ね?」

言って、再び書物と向き合い始めると、シリウスは素直に口を結んで沈黙した。今日は随分と物分かりが良いようだ。


――そう思ったのが甘かった。


「リーマス」

「なに……っわ、」

突然耳元で囁かれた名前にびくりと肩を竦ませるよりもはやく、シリウスは引き寄せた私の唇に触れるだけのキスを仕掛けた。

呆気にとられる私を余所にシリウスは気分を良くしたのか、頬、額、瞼、様々な箇所に次々と口づけを降らせる。


「ちょ、シリウス」

「いーから、本、読みたいんだろ?」

「……まったく、」

これで集中できる方がどうかしている。
観念して本を閉じた私を、シリウスは悪戯が成功したあの笑みで見上げていた。昔からだ。この手の勝負でシリウスに勝てた試しなど一度もない。


「君にはお手上げだ」

「当然だろ」


それからはまた何時も通りの甘い午後。

疲れたシリウスが眠りにつくまでは、空想の世界とはお別れだ。


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