拍手+捧げもの | ナノ



■晴(リボーンと綱吉)


 れやかな顔をして笑う。
 大空の属性に相応しい、包容力に満ちた笑顔で、彼は周りの人間を取り込み続ける。
 自分には決して出来ぬであろうその表情を見つめながら、リボーンは少しだけ口端を吊り上げた。

 今までの教え子の中で、綱吉は傑作の部類に入る。まさに非の打ち所のないマフィアの首領へと、彼は成長した。最近では皮肉げな笑みを浮かべる事も多くなったが、それでもその本質は変わらないとリボーンは常々思っている。
「自分は変わってしまった」と思い込んでいる愚かな教え子に、わざわざ指摘してやるほど優しくないだけだ。

(お前はそのままで居ろ)

 苦悩し続けている限り、人は成長する事を止めない。哀れで愚かしい――しかし、だからこそ輝きを放つドン・ボンゴレの未来を見通すかのように、リボーンはゆっくりと目を細めた。










■曇(蕎麦)


 った表情の奥にある熱情に、気がついていないわけではないのだ。ただ、この綺麗な顔をした青年が、何故私のような男に興味を持つのか――それがどうしても分からなかった。
 彼だってきっと分かっちゃいないのだろう。ならば、私に察しろというのがそもそも無理な話だ。
 私を組み敷いたまま動かない愛弟子を見上げて、その長い睫にこっそり見惚れた。一番悪いのは、彼を拒めない私だ。

「…芭蕉さん」
「君は綺麗だね。すごく綺麗だ」

 淡々と告げる。ぎゅ、と寄せられた彼の眉間がやけに哀れで、私は何だか酷く切なくなってしまった。
 私の発した言葉ひとつひとつに、彼は驚くほど繊細な反応を示す。こんなにも痛々しい表情を見せる男を、私は他に知らない。










■雨(アイオリア)


 傘は必要ないと、今朝の天気予報では言っていたのに

 真っ黒な雲が立ち込める空を見上げて、アイオリアは大きな溜め息を吐いた。
 数週間前、緊急だと半ば無理矢理押しつけられた任務を先程終えたばかりだった。黄金聖闘士内でもとりわけ頑強を誇る彼の肉体も、流石に限界が近い。
 女神の聖域へ戻るにはまだまだ時間がかかるだろう。降り出した雨は止む気配など微塵も見せず、容赦なく彼の体温を奪っていった。

「お前の髪は日の光の色だな。まるで太陽だ」

 遥か昔、幼いアイオリアにそう言ってくれた人がいた。
 射手座の聖闘士――アイオリアを育て、慈しみ、鍛えてくれた人。世界でたった一人、彼の肉親であった人。
 アイオロスのそれこそ太陽のような温かい笑みを思い出して、アイオリアはふいに泣きたくなった。


(兄さん、兄さん――あれから13年経ちました)










■雪(関雪)


 絵、雪絵と呼ぶ声が、やたら遠くに聞こえていた。自分が発している声であるはずなのに、それはひどく不明瞭で、意地になって呼べば呼ぶ程、更に遠くなった。
 何度呼んでも、当の雪絵は私に背を向けたまま振り返ってはくれない。俯いたうなじの白さだけが、不自然なくらい明瞭と私の目に映った。
 ああ、届かないんだな――と、私はぼんやりとそう思った。


「…という、夢を見たよ」
 まるで自分が心理学者にでもなったかのような鹿爪顔で、私は言った。
 寝起きの放心状態だったから、よりによって雪絵にこんな夢の話をしたのかもしれない。起きた時に感じた何ともいえない脱力感を、とにかく誰かに伝えたかったのだ。たとえそれが、夢に出てきた当人であったとしても。
 私の馬鹿げた話に付き合わされた雪絵は、何でもない事のように笑ってこう答えた。

「タツさん、声が届かないなら直接捕まえてくださいな」

私は逃げたりしませんから、と言った彼女の顔がやたら美しく見えて、私はただただ狼狽えるしかなかった。






end.



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