やってる最中のXANXUSの顔を、俺はいつでも網膜に焼き付けようと必死になる。 全てを見逃すまいと。 眉間に寄ったしわも、薄く開いた唇も、そこから覗く濡れた舌も、そしてあの瞳も。 飢えた獣みたいなぎらつきを隠そうともしない奴のそれが、俺を貪るその瞬間、生に執着したような光を宿す気がしてならない。
ひどく苦しげで、見ているこっちが痛い。だが狂おしいほど、愛しい。どこまでだって一緒についていくのだと、半ば独りよがりな興奮に支配される。
「…なっ、に、考えてやがる」
そうしていると、珍しく余裕の無い声音で無理やり意識を引き戻された。 まるで咎めるかのように身体の内側をえぐられる甘い衝撃に、思わず腰が揺れた。ぎりぎりと神経を削るような、暴力と紙一重の愛撫は嫌いじゃない。飢餓感に満ちたその仕草を前にして、支配欲とも被虐心とも言えない烈しい感情が沸き起こった。 ――もっと。もっと欲しがれ。
「はっ…ボス、もっと…」
はしたなく奴の腰に足を絡めて、意識的に中を締め付ける。 普段からじゃ想像もつかない俺の恥態に、奴は訝しげな視線をこちらに向けた。紅い瞳に捕われると、それだけで感じた。
「…んだ、てめぇ。そんなんで誘ってるつもりか?気色悪ぃんだよカスが」
嘘だ。気色悪いならどうして勃つんだよ。俺の中で、馬鹿みてぇに存在主張してるくせに。 形まで覚えちまいそうだ、と切れ切れに呟くと、すぐ間近で低く呻く声がした。
「変態野郎」
そんな快感に掠れた声じゃ、説得力も何もあったもんじゃない。 ぎりぎりまで抜かれた後、一気に貫かれる感覚に眩暈がする。俺は頭のねじが一本取れたんじゃないかってくらいに、色気の無い声で身も世もなく喘いだ。足りない。もっとだ。
ガクガクと揺さぶられながら、俺は祈るようにXANXUSの背に爪を立てる。内に凝った激情を、全て俺にぶつけて欲しい。俺ならきっと、アンタの絶望も何もかも受け止めてやれるから。だから。
「XANXUS…っ!!」
必死で名前を呼んだ。気付けばふらりと向こう側へ行ってしまいそうな奴を、繋ぎ止めるかのように縋り付く。 喉が軋んで上手く声が出なかったが、それでもちゃんと聞こえたらしい。片眉を上げて俺を見返す奴の全てに、知らず胸が熱くなった。 柄にも無く泣きそうになった俺を眺めながら、XANXUSは顔をしかめて舌打ちする。腰の律動を続けつつ、不穏な眼差しで俺を突き刺した。俺の常とは違う態度に何かを感じ取ったのか、それはひどく切実な色を宿していた。
「お前は俺から離れるな」
それは命令なのか。懇願なのか。
奴が生きている間は、俺も絶対に死ねない。その命を守って死ねたら本望だ、と昔はそう思っていた。今だって奴の身に危険が迫れば、俺の全てを懸けて守る気持ちに変わりはない。しかし、それだけでは駄目だ。 どこまでもついていくっていうのは、多分そういう事じゃない。 奴より先に逝くよりも、奴と共に倒れるよりも。きっと、一緒に生き続ける方が難しい。 難しくて、そして何よりも必要な事だ。
「……っ」
言葉にならない衝動を抑えて、俺はXANXUSに掠めるような口づけを見舞った。 今だけは、奴が俺だけを感じてくれたらいいと切実に願った。
end.
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