行為の後、無意識に傷付けた綱吉の背中をぼんやりと見つめる。 幾筋かの朱い線が、その肌に走っているのが分かる。生々しい情交の痕跡に思わず舌打ちをしたら、綱吉は俺の視線に気付いて、苦笑しながらシャツを羽織った。 空気が鉛を含んだかのように重たい。こいつの笑顔は、いつだって俺を苛立たせる。
「…背中、酷いよね。京子ちゃんに見られたらどうしてくれるの」
背を向けられたまま、そんなとぼけた台詞を投げ付けられる。いかにも呆れたと言いたげな口ぶりに、俺はふざけるなと低く返した。馬鹿を言うな、無理矢理ヤったのはお前だろうが。
「俺は、XANXUSに痕をつけたりしないのにさ」 「そんなもの別に…」 「別に、構わないの? スクアーロにバレても」
くるりとこちらへ向き直り、綱吉はゆっくりと俺ににじり寄った。 十数年を経ても縮まらなかった身長差。 下から見上げてくる綱吉の瞳は、探るような鋭い光を宿している。
「俺に抱かれてるって、スクアーロに知られてもいいの?」 「それは―…」
咄嗟に言葉が出てこない。しかし、そんな俺に更なる追い撃ちをかけるかと思いきや、綱吉はそれ以上何も追及してこなかった。代わりに、複雑な笑みを浮かべて言う。
「ごめん、答えなくていいよ。痕をつけないのは俺の事情なんだから」 「お前の?」 「スクアーロに知られたくないのは俺の方。…何か、嫌なんだよね」
眉間に皺を寄せて、自嘲に口許を歪ませる――めったにお目にかかることの出来ない、ひどく珍しい表情だ。
「怖いのか」
何が、とは聞かない。そんなもの聞くだけ無意味だろう。 綱吉は俺の問い掛けにぴくりと肩を震わせた後、急に不意打ちの口づけを見舞った。
「な、」 「XANXUSは嘘が下手だから、ちゃんと頑張ってよね」
これは秘密なんだよ、と囁いた綱吉の顔は、既にいつもと変わりの無い穏やかな笑顔に戻っていた。
end.
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