あの頃、俺はまだ何も分かっちゃいないクソガキで。 馬鹿な戦いを挑んできた赤眼のお坊ちゃんを、半ば力付くでイタリアに送り返すに至っても尚、自分がマフィアになるなんて全くイメージしていなかった。
『マフィアなんて、結局汚い事ばかりやってるじゃないか!人を傷つけて、殺して―…』
実を言うと、今だってその考えは変わっちゃいない。ただ、俺は理由付けが天才的に上手かった。 「皆を守りたい」なんて陳腐な言い訳を本気で垂れ流しながら、無意識に何も知らない振りをしながら。俺は、そうやってどっぷりと泥水に浸かり込んだ確信犯だ。
「まぁ、守りたかったのは本当だけどさ…」
薄暗い寝室には明かり一つ灯ってはいない。カーテンの隙間から洩れる微かな光が、夜明けが近いことを知らせていた。 小さく呟いて、俺は隣で眠る京子ちゃんに視線を移した。彼女が起きてしまわぬよう、静かに体勢を変える。昔と変わらないあどけない寝顔に、自然と口元が緩んだ。
守るために戦って、敵が増えるたびに、その回数も多くなっていって。 そうしていつの間にか、俺は「ドン・ボンゴレ」になってしまった。彼女の兄まで巻き込んで。
「ごめんね」
小さな寝息を立てる唇に、そっと口付けた。 「君は今幸せ?」なんてとても聞けそうにない。不幸でもいいから側に居て欲しいと言ったら、君は一体どんな顔をするんだろう。
end.
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