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 その日。
 任務を終えて本部に帰ってきたヴァリアー次席は、いつにも増して不機嫌な上司に、出合い頭にひどく殴られた。
 いつもの事だが、理由は分からない。
 理由も分からないまま、次席──スクアーロは、無理矢理寝室へと引きずり込まれた。
「う"おぉい!」
「黙れ」
 突然落とされる、暴力的なキス。
 これも、いつもの事だった。




* * * *




 色素の薄いその瞳は、獣のように獰猛な光を宿している。
 いつもは耳障りでしかない粗野な声も、この時だけは信じられない程の艶を帯びて。
(女だって、ここまで卑らしい声は出さねえよ――)
 自らの欲望で刺し貫き、組み敷いた銀色の獣を見つめて、XANXUSはくっ、と眉間に皺を寄せた。
「何て顔してんだぁ、ボス」
 その表情の変化に気付いたスクアーロが、怪訝そうに下から見上げてきた。
 うっすらと上気した頬と、首筋に散った紅い痕が、男の白い肌によく映える。
 たまらず鎖骨の辺りに強く噛み付くと、引き攣ったような悲鳴が上がった。 それを咎めるかのように、XANXUSはシーツに縫い付けた手首を、軋む程きつく握る。
「っ…な、にしやがる」
「煩ぇ、黙れカス」
 眦を吊り上げて、スクアーロが何か言いかける。どうせ口汚い罵声しか出てこないのは分かりきっていたから、XANXUSは遠慮のない乱暴さで、その唇を奪った。
 歯列をこじ開け、逃げる舌を無理矢理絡めとる。ぶるりと震えたその様がおかしくて、彼はくちづけの合間に密やかな笑いを漏らした。
「ん…ふ、ぁ」
 強く舌を吸い上げると、それに連動するかのようにスクアーロの内部がうごめき、くわえ込んだモノを更に奥へと誘う。
 締め付けられる感覚に目眩がして、XANXUSは目を細めて快楽の波をやり過ごした。

「───淫乱が」

 冷たく吐き捨て、脚を限界まで割り開いて容赦なく突き上げた。
 強すぎる刺激に逃げを打つ腰を押さえ付け、更に責める。固く張り出した先端で最奥を穿つ度に、甘く掠れた嬌声がスクアーロの口から零れては消えてゆく。
耳を覆いたくなるほど卑猥な水音が、部屋中に響いていた。

「うぁ…あっ、ざ、んざす…っ」

 せわしなく吐き出される、熱い吐息。回り切らない舌で、拙く名を呼ばれた。

 下から見つめてくるスクアーロの、銀色の瞳が欲に濡れている。焼け付くようなそれを目の当たりにした途端、XANXUSは例えようのない苛立ちを覚えて、いきなりスクアーロを自分から引きはがした。そしてそのまま、彼の頬を思い切り張った。
 鈍い音が響く。大きくのけ反る形になったスクアーロが、殴られた頬を押さえてXANXUSを睨みつけた。
 口の端が切れて血が滲んでいる。
「何すんだてめぇ!」
「気持ち良さそうによがりやがって…これじゃあ仕置きにならねぇ」
「は?」

 何の事だと視線だけで問うてくるスクアーロの、頬のすぐ横に散らばった銀糸を掴んだ。
 滑らかな手触りはそう長くは続かず、途中でふつりと消える。
 本来なら腰まであるはずの彼の髪は、ちょうどその一房分だけ、肩の辺りで途切れていた。
「…あ"ー…これ、か」
 ばつが悪そうに、スクアーロは顔をしかめる。その表情が妙に癪に障って、XANXUSは拳をその顔面に打ち付けた。
「ぐっ」
「しくじりやがったな、カス」
 大方、追い詰められたターゲットに反撃でもされたのだろう。スクアーロにしては珍しい事だが、この職業だ。何があっても不思議はない。それなのに。


(この苛立ちは何だ。)


 馬乗りになり、容赦なく殴り付ける。鈍い音がして、その形の良い鼻から赤い鮮血が溢れ出す。次第にうつろな表情になってくるスクアーロにあからさまな愉悦の色を見つけ、XANXUSは激しい嫌悪と興奮を覚えた。

「また勃ててやがんのか、変態が」
 根本をきつく握ってやると、スクアーロが苦しげに呻いた。理不尽な戒めに恨み言を吐く余裕もない。
慈悲の一片もない責めの合間に、組み敷かれた獣は切れ切れに言葉を漏らした。

「ぁ、は…っ。も…う、二度と」
「二度と、何だ」

 苛つきを得意の無表情で隠して、XANXUSは冷たくスクアーロを見下ろす。髪の毛一本に至るまでお前の所有物だと嘯いたくせに、こうやってふざけた真似をするのが許せない。
 そして何よりもっと許せないのは、そんな戯言で、知らず知らずのうちに気持ちを左右されていた自分自身だ。
「二度と何だと聞いてる。さっさと答えろ」
 再び促す。既に限界まで張り詰めたスクアーロのそれは、開放を待ち望むかのようにとめどなく先走りを滲ませている。指で掬い取り、塗り込むように先端を弄ると、面白い程その裸身が跳ねた。
「もっ…ボス!」
 切羽詰まった懇願も、聞いてやる気は全く無い。
 凶暴な笑みを浮かべて、更にそれをきつく握り込むと、スクアーロは達する事が出来ない苦しさに喘ぐ。ひくりと震えた咽がやけに扇情的で、XANXUSは半ば無意識にそこへ舌を這わせた。驚愕して固まるスクアーロと目が合ったが、XANXUSは戸惑いを多分に含んだその瞳を黙殺した。
「なん…」
「まだだ」
 なんで、と呟きかけた唇を塞ぐ。くぐもった声を漏らすスクアーロの髪を梳きながら、XANXUSは一度抜けてしまった自身を再び突き入れた。既にほころんだそこは難無くXANXUSを飲み込み、貪欲に雄の侵入に歓喜した。

「ぐ…っ、あァ、あ!」

 ようやく再開された凌辱に、スクアーロの唇からひっきりなしに嬌声が漏れる。
 もはや意識を飛ばしかけているスクアーロを射ぬくように睨みつけ、XANXUSはその耳元に低く囁いた。

「――いいか屑野郎。今後一切、誰にも触らせるな。お前の傷は俺が作る」

「は、マジかよ…ボス」

 きゅ、と切れ長の瞳が細められ、スクアーロは何ともいえない表情で笑った。







end.



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