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 得体の知れない凶暴性が、皮膚の下をざわざわと駆け巡っている。

 容赦無く存在を主張するそれは、いつか俺の身体を突き破って、大切な人達を飲み込んでしまうんじゃないだろうか――そんな、縁起でもない妄想が次から次へと頭の中に湧き起こって仕様がない。吐き気がする。
 知らず噛み締めていた唇に手をやると、かさついた感触の後、指先へ僅かに血が付いたのが分かった。

「今日は空気が乾燥してるからな。気をつけろ」

 そんな間の抜けた言葉が、後ろから飛んでくる。投げかけられた声の先へ振り返ると、紅眼の男が素っ気なく俺を見つめていた。
 年齢を重ねて幾分か落ち着いたその男の瞳には、初めて会った頃には全く感じられなかった穏やかさが宿っていた。
 単なる世間話目的で呼び出しても、渋々とはいえ彼は本部へとやって来る。今だってそうだ。以前は目が合っただけで相手を喰い千切る獣みたいな目をしていたくせに、随分丸くなったものだと思う。

「何、XANXUS」
「だから、乾燥してるんだよ。空気が。ルッスーリアが言ってたぜ、“ツナ君はあんなに柔らかいお肌をしてるけど、意外に繊細なのよね。インナードライなのかしらねぇ――」「やめて怖い。お前が言うとめちゃくちゃ怖い」

 俺が言ってるんじゃねえ、ルッスーリアが、だ。とXANXUSは意地悪な笑みを浮かべた。腰掛けていた応接セットのソファからゆっくりと立ち上がると、勿体ぶった動きで俺の唇に触れる。

「ほらな」
「だから、何が」
「あまりささくれ立つなよ、小僧」

 何が小僧、だ。
 ふんと鼻をならしてその手をはらう。口元を歪めたその笑い顔に、なんだか急に力が抜けた。


「そういう所、スクアーロにそっくりだ。似た者夫婦め」
「何度も言わせるな、あいつはそんなんじゃない――…だが、長年一緒に居りゃ嫌でも似る」

 抑揚の無い声で言うが、そこから滲み出る愛着を隠しきれていない。のろけるのも大概にしろと無理矢理口付けると、呆れ顔のその男は、無言で俺の眉間にデコピンを喰らわせた。







end.



純真よさらば(ザンスク前提ツナザン)



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