「綺麗なリボンで自分をラッピング。プレゼントは私……くらいのことやってくれそうじゃない? スクアーロなら」
我ながら笑えない冗談だけど――年代物のワインを惜し気もなく開けてしまったその男は、お得意の無邪気な笑みを浮かべながらそう言った。 ボンゴレからの召集だというから、やりかけの仕事を放り出してまでわざわざ来たやったというのに。 徹夜明けの酷い凶相、加えて恐ろしくボンゴレ本部に似合わない黒のレザーコートに身を包んだままの俺は、部屋に入るなりいきなり卓につかされた。 何の真似だと憤る暇も無くグラスを手渡され、今に至る。 実に不本意極まりない状況だ。馬鹿にされているとしか思えない。
「綱吉、何のつもりだ」 「俺なりの誕生日プレゼント。こうでもしないと、XANXUSは仕事休まないだろ」
仏頂面のまま問えば、意図的に的を外した答えが返ってきた。 どうして分かんないのかなァと首を傾げながら、綱吉はグラスの中に残っていたワインを一気に飲み干す。ごくりと上下する喉がいやに扇情的で、そう感じてしまった自分自身に腹が立った。
「お前に誕生日を祝って貰う義理は無い」
苛立ち紛れにそう吐き捨てると、綱吉は曖昧な表情で笑う。それは最近たまに見せるようになった、とても珍しい顔で。 俺が知る、こいつのドン・ボンゴレとしてではなく、まだ20代そこそこの若造らしい唯一の一面だった。
「まぁね。ただ…あんなに、切実に人の誕生日に感謝する人間を、俺は他に知らないから」 「何?」 「素直に祝って貰うのも愛情だよ、XANXUS。じゃあ…俺はもう充分。帰っていい」
すっ、と指差されたのは、未だ鍵の掛けられていない扉。 仕事を頼むでもない、抱きもしない。揚句の果てに、来て早々追い返すとは何事だ。 一見意味不明な横暴の裏に透けて見える綱吉の複雑な感情が、俺を何とも言えない憂鬱な気分にさせた。何がしたいんだ、この男は。
「すぐ帰ったんじゃ呼ばれた意味がねぇだろう」 「?…XANざ」 「ワインくらいゆっくり飲ませろ。それくらいの時間、一緒に居たって罰なんか当たりゃしねぇ」
素直に祝って貰うのも愛情。
「誰から」なんて言わなくても分かっている。おそらく、俺がこの世に生まれた事を世界中で一番神に感謝してるその男は、今頃そわそわしながらヴァリアー本部で俺の帰りを待っていることだろう。 銀髪の愚か者。唯一無二の、俺の片翼。
ふいに、綱吉がひどく大事にしている亜麻色の髪の少女が脳裏をよぎった。 あの娘に受け入れて貰うことを、きっとこいつは恐れている。
「…祝って貰う相手を間違えてるよ、XANXUS」 「お前こそ、構う相手を間違えてる」
くそガキが。
小さく呟いて、俺はグラスを呷った。
end.
|