どうして男相手に可能なのだろう。
益田の首筋に噛み付きながら、青木はふとそう思った。 年の暮れも近づいた、寒い冬の夜である。未だ上がり切っていない中途半端な熱に身震いし、益田は突然動きを止めた青木を怪訝そうに見つめた。
「…何ですか、青木さん」 「いや。僕は元々女性が好きだったはずなのにな、と思って」
青木はおよそ睦言に相応しくない台詞を平然と吐く。そして脱がしかけたままにしていた益田のシャツを無造作に取り去った。
「君はどうなんだ」 「何がです?」 「最初から男が好きなのか」
言いながら、つつと益田の胸へ手を滑らせる。焦らすような愛撫に唇を噛み締める益田を眺めて、青木は意地悪くその耳に囁いた。
「こんな身体で、君は女性を抱けるのか」
まるで見下したような口調に、益田は不愉快そうに顔をしかめた。
「…余計なお世話、でしょう」
青木は、その否定とも肯定ともつかぬ答えを鼻で笑って一蹴した。真実などどうでもいいのだ。問いの目的は、益田を辱める事にこそある。 益田の両足の間に割り入れていた膝をぐっと進めると、既に張り詰めているそれの感触が当たった。心が急激に冷めるのを感じると共に、この状況にひどく欲情した。
こんな感覚は知らない。
少なくとも益田と出会うまでは、青木は木場に少々行き過ぎた思慕の念を抱いてはいるものの、それを除けば至極真っ当に生きてきたのだ。 このままいつかは結婚でもして、家庭を持つのだろうと漠然と思っていた程に。
「君のせいだ」
ぽつりと呟くと、益田が何とも言えない表情をして口元を歪めた。見ようによっては笑っているのだとも受け取れる。 しかし、次に彼の口から漏れた言葉は、意外にも真剣な、熱をはらんだものだった。
「僕ァ知りませんよ、そんなの。――…ただ、少し辛いんです」
辛いんですよ、ともう一度消え入りそうな声で言うと、益田は青木の背に腕を回した。 男にしては貧相な、骨ばったそれが絡みつく。
「どうしてですか。どうするんですか…僕たちはどうしたら」 「黙れ」
意味のない問いを、青木は無理やり口付けで塞いだ。奇妙な焦燥感に苛立ちが募る。 答えなど、理由など。そんなものは知らない。知るものか。
そうして有耶無耶にする事しか、今の彼には出来なかった。
end.
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