※青益現代パラレル
最近付き合い始めた僕の恋人は、すぐに一人で疑心暗鬼になってこちらを詰る。 うじうじとまぁ、よくやるものだと思う。出会ってからはもう随分経つのだが、まさかこんなに面倒な性格をしていたなんて。今日も何度目か知れない彼の癇癪を受け流しながら、僕はうんざりと溜息を零した。 「あ、あおきさん、今面倒だと思ったでしょう…っ」 「思ってないよ」 「う、うそだ」 じっとりと恨みがましい目で見つめてきて、本当に面倒だ。よく分かってるじゃないか。 大体、彼は何がそんなに不満なんだろうか。 確かに彼は男だけど、僕はそんな事気にしちゃいない。というか、腕力は僕の方が上なのだから、初めて彼に誘われたあの時、嫌なら殴ってでも拒否していた。 それをしなかったという事はそういう事だと、何故分からない。 綺麗な女性が居れば、そりゃ目で追うけれど。それとこれとは話が別だろう。 僕は苛つきを隠そうともせず、目の前に座る彼を睨みつけた。途端、びくっと体を揺らして膝に乗せた手を握り締める様が、なんだか哀れだった。 「益田君」 「はい」 律儀に返事を返す彼の目には、うっすら涙が滲んでいる。じわりと紅く染まった目尻には独特の色気が備わっていて、こんな時なのに、無性に触れたい衝動に駆られた。 「益田君、どうして泣くの」 「どうしてって…」 「僕のせいなのかな、それは」 直球で投げた言葉に益田がぐっと詰まる。戸惑っているのがありありと分かる表情で、せわしなく視線を彷徨わせた。 そのまま何も言わずに見つめ続けていると、やがて居心地が悪そうに口を開く。 「青木さん…怒ってるんですか。僕が、こんな風だから」 「怒ってますよ。君はいちいち疑い過ぎる。そんなに僕は信用がならないですか」 「……」 肝心なところで黙り込む。流石に腹が立つ。僕は勢いに任せて、畳み掛けるように酷薄な台詞をどんどん彼にぶつけた。 「信用出来ない男と付き合って、楽しいですか。君はそれでいいんですか。何なら別れますか? 今ならまだ、お互い傷は浅いでしょうし」 「そんな…っ」 益田が小さく叫ぶ。 泣くかな、と思っていたのに。意外にもテーブルに身を乗り出した彼の目には、はっきりと怒りが浮かんでいた。 「別れたいわけ、ないじゃないですか! そんな…そんな言い方って、ないです。あんまりだ」 「あんまりなのは君の方だろう」 「何が…!」 「君が泣きそうになっているのも、そうやって怒っているのも、僕のせいなんでしょう。そういうの、僕は嬉しいですよ」 「え」 拍子抜けしたようにぽかんと開けた口が、何というか可愛かった。そう思う時点でもう手遅れだ。 先程から触れたくて堪らない。手を添えた彼の頬はひやりと冷たかった。けれど、しっくりとなじむその温度が僕はとても好きだ。 「ねぇ、益田君。どうして僕がそう思うのか、ちゃんと分かってる?」 「あ、おきさん」 付き合う前は、随分人懐っこくて軽薄な男だと思っていた。だが実際は大違いだ。基本的にネガティブで嫉妬深い。おまけにねちっこい。そして、僕の言動にいちいち泣いたり怒ったり戸惑ったりする。正直言って、物凄く面倒だ。 それでも、それを可愛いと感じているのだから、仕様が無いじゃないか。 「何がそんなに不満なのかな」 「違う。不満とかそういうのじゃなくて。僕は、ただ…あなたが好きなだけだ」 「ああそう」 何の飾り気も無い言葉だが、彼らしい。 なるほどね、と納得しながら、僕は身を乗り出したままになっていた彼の目元に軽く口付けた。ひゃあ、と可愛げの無い声で悲鳴を上げるのがおかしくて、僕は大いに笑った。
end.
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