※青益パラレル/設定:高校生
「…で、ねぇ、どうなの?」
いつの世も、若い娘は囂しい。 益田はうんざりした表情を隠そうともせず、目の前の少女に向かってひらひらと手を降った。 昼休みの教室は騒がしい。昼食を終え、少し眠ろうかと机に突っ伏した所に突然声をかけられたのだ。 昼寝の邪魔をされた益田の機嫌は頗る悪い。悪いのだが、それをあからさまに表に出せる程、彼の気は強くなかった。 せいぜい迷惑そうな顔をするのが関の山。それだって、周りの人間には少しも効きやしない。
「どうなのって、何が?」 「だからぁ、B組の青木君。あんた仲良いんでしょ?彼女とか居るのかなって」
言いながら彼女は、その顔をほんの少し赤らめた。校則で指摘されない範囲でカラーリングした髪を、細い指先でくるくると弄っている。上気した頬が、なんともいえず愛らしかった。 クラス内でもかなり可愛い部類に入るその少女を、益田は憎からず思っている。思っているからこそ、余計にうんざりした。 青木は意外にもてる。本人自体が控えめな性格だから、あまりそれが目立つ事は無かったが。 益田は沸き上がる感情をもてあまし、やがてそれを言葉にする事を諦めた。代わりに、のろのろと彼女の質問に答えてやる。
「どうだろ、あんまりそういう話聞かないけど」 「本当に!?」
パッと顔を輝かせ、彼女は益田の机に身を乗り出した。途端覗いた鎖骨──なめらかな胸元の白さに、益田は黙って目を伏せた。 この、言い様の無い罪悪感は一体何なのか。
「聞かないってだけで、後は本当に知らないんだってば」 「ええ?嘘でしょー…」 「嘘じゃないよ」
更に益田に身体を寄せた彼女の後ろから、突然静かな声が降ってきた。机に大きな影が落ちる。 驚いて振り向いた彼女の肩越しに、穏やかな笑みを浮かべた青木が立っていた。益田は俯いていた顔を上げ、やや非難めいた視線を彼に送る。
「何、びっくりした…全然気付かなかった」 「益田君が話に夢中になってただけだよ。ほら、教科書」
益田が貸したままになっていた教科書を机の上に放ると、青木は例の誠実そうな口調で、固まっていた彼女に話しかけた。
「本当に益田君は何も知らないんだよ。話してないから。もし仮に好きな人が居たとしても──彼には言わないね」
最後の台詞は益田に向けて投げつけられた。意味深な眼差しにどうしようもなく胸が騒いで、益田は並んだ二人を直視できずに俯く。 ああ、彼女の事は憎からず思っていたのに。
それから後に二人が交わした会話を、益田はほとんど覚えていない。ただただ、目の前の少女と、嘘くさい笑顔の彼が早く居なくなってくれるよう祈るしか無かった。
(青木君なんか大嫌いだ!)
end.
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