三人で飲む時に話題に上るのは、当然ながら共通の知り合いとなる探偵や古書肆、小説家、そして僕の先輩刑事の事ばかりだ。 あの人がああで、この人がこうだなどと、尤もらしく分析し、好き勝手に語り合う。 掴み所の無い人達だから、そう簡単には話題が尽きない。酒の肴にはもってこいだった。 休日前という事もあり、仕事上がりに入った居酒屋は随分な盛況ぶりだ。そこかしこで、酔いの回った客の高笑いが聞こえていた。
「益田君は本当に大将の事が好きなんだねぇ」
ふいに投げかけられたそんな言葉に、あの男はうっすらと目尻を赤く染めた。白い肌にさっと走る朱が、やけに鮮やかに見えて僕は辟易した。 馬鹿な男。 質問の主――鳥口はきっと気付いている。惚けているようで其の実抜け目の無い彼が、あんなあからさまな反応を見逃すはずがない。 気付いた上でからかっているのだと、何故分からない?
「やだなぁ鳥口君。そんなわけないでしょう、そりゃ雇い主ですから嫌っちゃいませんが。あんなオジサン――」 「鳥口君コップが空だね。次は何を頼む?」
意図的に益田の言葉を遮り、僕は鳥口へ穏やかな牽制を行う。 当の益田は一瞬だけ不思議そうな顔をしたけれど、結局何も言わずに、ちびりと自らのコップに残った酒を嘗めた。 全く気付いていない。その様子に安心すると同時に、胸の内にもやもやとした気持ちが広がった。 らしくない。でも。
「ああ!すいません青木さん!じゃあまた水割りを一杯」
悪戯が見付かった子供のような目をして、鳥口がヘラリと笑った。 憎めないその笑顔に僕はすっかり呆れて、代わりに益田への苛立ちを募らせたのだった。
end.
|